(社説)香港一斉逮捕 民意封じ込めの弾圧だ

社説

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 東京大学の大学院博士課程に留学中の区諾軒さん(33)が、一時帰国のために香港に向かったのは今月5日夜のことだ。

 コロナ対策のため、翌6日未明に一時隔離のホテルに入った。約2時間後、身体を休める間もなく、香港警察の特別チームによって逮捕された。

 区さんは香港立法会の前議員。立法会選に向けた昨年7月の民主派の予備選挙をめぐる言動が、国家安全維持法に違反する疑いがあるとされた。

 国安法と呼ばれる、この法律は、香港での反体制的な動きを取り締まるために、中国が一方的に制定したものだ。

 この日、区さんを含め、民主派の政党幹部や学者、弁護士ら53人が一斉に逮捕された。

 あまりにも露骨な民主派つぶしの大量摘発である。香港の自由と自治を奪う国安法を、香港警察は本格的に弾圧の武器に活用し始めた。

 民主派は予備選の際、立法会選で過半数の議席をとって予算案を否決し、行政長官を辞任に追い込むことを目標に掲げた。これが「香港政府をまひさせようとする計画」であり、政権転覆罪が適用されるという。

 香港基本法によって認められた議会戦術を唱えたに過ぎないことが、なぜ犯罪なのか。不当きわまりない。

 当局の圧力にもかかわらず、予備選の投票者数は主催者目標の3倍を超える61万人にのぼった。本来、中国と香港の政府はその民意をくむべきだった。

 ところが、実際には全く逆のことが行われた。

 昨年9月に予定されていた立法会選を前に、民主派候補12人の立候補が禁じられた。さらにコロナを理由に立法会選は延期された。民主派4人の議員資格も一方的に剥奪(はくだつ)された。

 選挙をめぐる、異様なほどに執拗(しつよう)な威嚇と抑圧である。

 一昨年の区議会選での民主派の圧勝が背景にあるのだろう。共産党政権は、民主派のデモが香港の民意に反するとしてきたが、選挙結果は違っていた。

 今年9月には立法会選がある。年末には来年の行政長官選の選挙委員会のメンバー選出もある。いずれも親中派に圧倒的に有利な選挙制度だが、それでも徹底的に民主派を抑えつけないと心配らしい。

 一斉逮捕には米国人弁護士も含まれた。この問題が香港や中国の人たちだけのものでないことがより明確になってきた。

 日本にいる民主派支持の香港人は「日本人が当たり前だと思っている自由が、本当に当たり前かどうか、香港を見て考えてほしい」と語る。その重い訴えを、正面から受け止めなければならない。

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