(社説)協同労働 働き手の利益を第一に

社説

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 先の臨時国会で労働者協同組合法が成立し、「協同労働」の組織に法的位置づけが与えられた。多様な働き方が広がる出発点にするためにも、実際に働く人々の利益を第一に、制度を育てていく必要がある。

 法律は労働者協同組合について、組合員が出資し、それぞれの意見を反映して事業が行われ、組合員自らが事業に従事することを基本原理とする組織と定めている。同様の組織はこれまでワーカーズコープなどと呼ばれてきたが、根拠法がなかった。NPO法人や企業組合などのかたちをとって活動してきたが、財務基盤が弱くなりがちといった制約があった。

 議員立法で、全会派が賛同した。法律では、代表理事などを除く組合員との間で労働契約を結ぶと規定。議決権は出資口数によらず平等にし、剰余金は、出資額ではなく事業に従事した程度に応じて配当する。

 営利目的の事業は行ってはならないが、事業領域は労働者派遣事業以外は基本的に制限がない。福祉関係や生活支援、農業など、高齢化や人口減少が進む地域社会の様々な課題にとりくむ役割が期待されている。

 これまで国内の「協同組合」は生協や農協が中心だった。それが協同労働にも広がることは、日本の経済社会の厚みを増すことにもつながり、歓迎したい。成立した法律を土台に制度を社会に着実に根付かせ、活用することがのぞましい。

 働く側にとって、自らの声が反映された働き方ができるのは大きな利点だ。ただ、やりがいに頼り過ぎたり、それを一部の運営者が利用したりして、働き手に負担のしわ寄せがいくようなことがあってはならない。

 とくに出資や運営、労働が一体的な構造になると、利害相反が起きかねない。賃金や労働条件が不当に切り下げられれば、当の働き手の利益が損なわれるだけでなく、安値受注などの温床になり、地域の労働市場に悪影響を及ぼす懸念もある。

 日本労働弁護団は今年3月、法制定の意義を認めつつ、働き手が労働者として必要十分な保護を受けられない余地を残すとの懸念を表明し、「ワーキングプア」を生んではならないと注意を促した。こうした声もあり法案は提出前に一部修正。制度の乱用を防ぐための指針も定められる。実際の運用にあたっては、法律や指針の趣旨を十分に踏まえるべきだ。

 働き方の多様化と、働き手の権利の保護の両立は、雇用・労働全般につながる問題である。フリーランスや「ギグワーカー」などが注目されているが、働く側は容易に弱い立場に置かれることを忘れてはならない。

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