SDGs、まずは知ることから 朝日教育会議

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 ■拓殖大×朝日新聞

 SDGs(持続可能な開発目標)は、私たちの暮らしに大きな変革を求めています。拓殖大学は朝日新聞社と大型教育フォーラム「朝日教育会議2020」を共催し、SDGs実現のために必要な行動や人材について議論しました。

 【11月21日に開催。インターネットでライブ動画配信された】

 ■基調対談 「考えて買う」、小さいけれど大きな一歩 モデル・冨永愛さん

 世界的トップモデルの冨永愛さん。「明日の世界のために私たちができること」をテーマに、朝日新聞社の一色清・教育コーディネーターが話を聞いた。

 ――冨永さんは途上国の女性支援など、社会貢献活動に取り組んでいますね。

 国際協力NGO「ジョイセフ」の活動を知ったのが10年前で、息子を出産して少し経った頃でした。衛生環境の整っていない途上国では、1日1千人もの女性が妊娠、出産、中絶によって亡くなっていると聞き、日本で安全に出産した自分がいかに恵まれていたのか気づかされました。支援活動に参加するようになり、ザンビアやタンザニアを訪れました。

 ザンビアでは、13歳くらいのとても低い年齢で子どもを産み始め、生涯に10人くらい出産する女性もいます。その背景には、性教育が行き届いていないことがあります。そこで、どのように子どもができて生まれるのかを、村々を回ってお話ししてきました。まずは知ってもらうことで、妊産婦の死亡率減少につながればと考えています。

 ――環境問題にも関心を持たれていますね。

 以前、ラジオ番組の企画で東南アジアのボルネオ島に行く機会がありました。そこでは熱帯雨林が伐採され、アブラヤシ農園に変えられていて、森で暮らしていたオランウータンやゾウなどの動物が追いやられていました。アブラヤシから作られるパーム油は、私たちが普段使っている化粧品やせっけん、食品などに使われています。遠い国の話だと思っていたら、実は日本とも密接につながっている問題でした。

 環境を壊すことは、動物だけでなく、温暖化自然災害といった形で結局は私たち人間にも影響を与えます。切り離しては考えられないと気づいて、環境問題に関心を持つようになりました。今は消費者庁のエシカルライフスタイルSDGsアンバサダーとしても活動しています。

 ――「エシカル(倫理的)消費」という言葉は、ファッション業界でも広がっていますか。

 ファッション業界は環境への影響が大きいと言われています。今ではずいぶんと意識が変わり、責任を持って服作りをする企業やブランドが増えました。私たちも一消費者として、自分の好きなブランドや企業の活動を知る必要があります。どんな材料で、どこで作られ、どのようなプロセスを経て届けられているのか。それを知った上で、買うものを選んでいきたいですね。

 ――冨永さん自身は、どのようなSDGsの取り組みをしていますか。

 SDGsには17の目標があり、さらに細分化したターゲット(小目標)があります。その中に自分のライフスタイルに近いものを見つけて、ちょっとした行動に移しています。例えば、食品ロスへの取り組みとして、冷蔵庫の中身を把握することにしました。すると、買い物に行った時、冷蔵庫にあるものを買ってしまう「ダブル買い」が避けられるんですよね。家庭で出来るちょっとしたSDGsです。食品ロス全体のうち、家庭内が46%を占めるそうですから、小さいけれど大きな一歩なのかもしれません。

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 とみなが・あい 17歳の時にニューヨーク・コレクションでデビュー。以降、世界的トップモデルとして活躍し、CMやテレビ、ドラマにも出演。2019年に消費者庁の「エシカルライフスタイルSDGsアンバサダー」に就任した。

 ■パネルディスカッション

 SDGsを実現するため、私たちに何ができるか。冨永さん、拓殖大学の川名明夫学長と石川一喜・国際学部准教授、廃棄物処理会社である石坂産業の石坂典子社長の4人が意見を交わした。(進行は一色清・教育コーディネーター)

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 ――2015年にSDGsが国連で採択されてから5年。日本のSDGsの現状と課題について、どう見ていますか。

 冨永 ずいぶんと意識が高まってきましたが、海外と比較するとまだまだです。ファッション業界の人間として言うなら、SDGsが「かっこいいこと」という認識が広がれば、もっと関心を持つ人が増えるかもしれませんね。

 石川 SDGsの認知度を尋ねた民間調査で、19年は2割以下でしたが、20年は3割まで上がりました。しかし、「知っていること」と「行動すること」には大きな溝があります。

 私は20年8月まで1年間、イギリス南西部のトットネスに滞在していました。人口8千人ほどの小さな町ですが、持続可能な町づくりに取り組む「トランジションタウン」として、注目を集めています。地元食材を使った飲食店が並んでいたり、使わなくなったものを共有するための物置があったり、住民たちが楽しみながら、社会問題に働きかけていく。トットネスの人の姿に、SDGsのヒントがあると感じました。

 石坂 日本では廃棄物の多くが焼却されていますが、世界的にはほとんどが埋め立てられます。すると土が汚染され、水、植物、動物、人間も影響を受けます。私の会社には1日に大型ダンプ300台分の廃棄物が運ばれて来て、それを一つひとつ、人の手で仕分けていきます。その様子を見て、体感してもらうことで、何かを考えるきっかけになればと、年間4万人の見学者を受け入れています。まずは知ることが大切だと思っています。

 ――教育現場でもSDGsへの取り組みが行われています。その狙いは。

 川名 大学というのは、さまざまな技術革新を担う場です。例えば、食品ロスの話がありましたが、冷蔵庫の中身を把握するのに、AIを活用できます。しかし、AIを動かすには電力が必要になる。今後あらゆるものにAIが使われるようになった時、今のままの電力供給源で良いのだろうか。そういった先まで見据え、社会に問いかけることが大学の責任です。それを支える人材を育てることも使命だと考えます。

 ――SDGsに関する日本と海外の意識の違いをどう感じていますか。

 石川 今日は、オーガニックコットンやフェアトレードで生産された服を着ています。ただ、いくら探してもズボンだけは見つかりませんでした。トットネスでは300メートルくらいの商店街にオーガニック製品を扱う商店がいくつもあり、非常に手に入れやすい。こうした「真っ当なもの」へのニーズの差であり、意識の差だと思います。

 冨永 約20年前にニューヨークへ行った時、すでにオーガニックスーパーがありました。フランスの街なかには着古した服を入れるポストがあって、リサイクルされたり、貧しい人に届けられたりしています。

 ――日本人の意識が十分でないならば、どうすれば変えられますか。

 石坂 これまでは製造・設計が「川上」、廃棄物処理は「川下」の産業と呼ばれていました。しかし、サーキュラーエコノミー(循環型経済)を目指す時に、川上も川下もありません。

 SDGsの中に「つくる責任つかう責任」という項目があります。しかし、処分する責任は書かれていない。この30年間、あらゆるものの耐久性や利便性が高くなった一方、廃棄物の処理は複雑化し、コストがかかるようになりました。この作り方は未来にとって正しいのか、廃棄することまで考え、使うものを選ぶことが大切です。

 石川 イギリス滞在中に所属していたプリマス大学に、「サステイナビリティー・ハブ」という施設があります。地域住民にも開放されていて、そこで行政や市民団体、住民、教員、学生たちが一緒になって、「町をどうやって良くするか」を議論する。今の日本に足りないのは、きちんとした対話の場ではないでしょうか。

 冨永 家庭から出るプラスチックごみの多さに疑問を持っています。日本のスーパーでは肉や魚がきれいにパックされて売られていますが、それは私たちが衛生的な商品を求めてきた結果です。でも、本当にそれが必要でしょうか。そう考えたら、次はスーパーを選ぶなり、声を上げるなり、行動していくこと。消費者の力で、世の中を変えられると信じています。

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 かわな・あきお 1946年生まれ、東京都出身。工学博士。日本電信電話公社(現NTT)などを経て、99年に拓殖大学工学部教授、2015年に学長就任。「タフな人間力を持つグローバル人材の育成」を掲げる。

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 いしかわ・かずよし 1971年生まれ。98年、東京学芸大学大学院教育学研究科修士課程修了。2004年に拓殖大学国際開発研究所客員講師、08年に同助教授。15年から現職に。専門は開発教育など。

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 いしざか・のりこ 1992年、父が創業した石坂産業(埼玉県)に入社。ダイオキシン汚染報道で批判を浴びるさなか、社長に就任。地域と共生する会社に変革し、ごみの減量化・リサイクル化率98%を実現した。

 ■プレゼンテーション ブームにせず、100年後の幸せ作りたい

 SDGsをテーマに、高校生や大学生のプレゼンテーションがあった。

 2019年の拓殖大学の作文コンクールで最優秀賞(高校生の部)を受賞した三田国際学園高校(東京都)3年の横山景星(けいせい)さんは、祖父が30年以上前に始めたネパールでの支援活動の実例を交えながら、SDGsの考え方を発表した。水道を整備したり、村の共有財産として畜産を始めたりした祖父の体験をふまえ、横山さんは「与える側」と「与えられる側」の関係ではなく、持続可能な仕組み作りの重要性を強調した。「SDGsをブームにしてはいけない。自分たちが100年後の人たちの幸せを作っていきたい」と語った。

 続いて、拓殖大学国際学部3年の高橋亜紗美さんと佐藤優香さんが、SDGsへの取り組みを報告した。2人が所属する藍澤淑雄准教授のゼミナールでは昨年来、ごみ問題が深刻なマレーシア・コタキナバル市を訪問。住民たちに意識調査をしたところ、ごみ問題に無関心ではないことを知り、ワークショップや子どもたちとのごみ拾いを実施した。今後は、ごみを換金できる仕組みを作り、持続可能なリサイクルシステムを構築していく計画だと発表した。

 ■多様で具体的な話の説得力 会議を終えて

 SDGsは壮大なテーマだけに、ディスカッションが興味深いものになるかどうかのポイントは多様性と具体性だと思う。パネリストたちの立場がそれぞれ違うと議論が立体的になるし、本人の体験や行動に基づいた話は分かりやすく、説得力もある。

 今回の登壇者はモデル、廃棄物処理会社の社長、開発教育の研究者、学長と多彩な顔ぶれだった。仕事や生活、海外での経験をもとにした具体的なエピソードがふんだんに出てきて、とても分かりやすかった。

 印象に残ったのは、登壇者たちが口をそろえて、まずは知ることが大事だと言っていたことだ。石坂典子さんは、自社で多くの見学者を受け入れる理由について「見ることで廃棄物の出し方を変えなくちゃ、と感じてもらう機会にしたい」と話した。冨永愛さんは「家で料理をした後に、なぜこんなにプラスチックごみが出るのかと疑問を持つことから始まる」と訴えた。

 SDGsと言えば、自分には関係のない雲の上の話だと考え、知ろうとしない人が少なくないと思う。しかし、こうした発信が増えれば、認知度は確実に上がっていくだろう。(一色清)

 <拓殖大学> 1900年、台湾開発のための人材を育成する台湾協会学校として設立。今年、創立120周年を迎えた。東京都文京区八王子市にキャンパスを構え、商・政経・外国語・国際・工の5学部と6研究科を擁する。世界に貢献する真のグローバル人材の育成を理念とし、多くの卒業生が海外で活躍。約1千人の留学生が学ぶ。

 ■朝日教育会議2020

 10の大学と朝日新聞社が協力し、様々な社会的課題について考える連続フォーラムです。「教育の力で未来を切りひらく」をテーマに、来場者や読者と課題を共有し、解決策を模索します。これまでに開催したフォーラムの情報や、内容をまとめた記事については、特設サイト(https://aef.asahi.com/2020/別ウインドウで開きます)をご覧ください。すべてのフォーラムで、インターネットによるライブ動画配信を行います。

 共催大学は次の通りです。共立女子大学、成蹊大学、拓殖大学、千葉工業大学、東海大学、東京理科大学、二松学舎大学、法政大学立正大学早稲田大学(50音順)

 ※本紙面は、ライブ動画配信をもとに再構成しました。

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