(渦中のプロ野球)異例ずくめ、球団経営苦心 プロ野球12球団社長らに聞く=訂正・おわびあり

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 今年のプロ野球は新型コロナウイルスの感染拡大で開幕延期や無観客試合を強いられた。昨季まで12球団の総入場者数が過去最高を記録するなど円熟期を迎えつつあった球団経営に、どう影響が出ているのか。12球団の社長らが朝日新聞のインタビュー取材にそれぞれ応じ、経営状況や開幕までの舞台裏などを語った。(プロ野球取材班)

 ■集客を柱とする球団収入、打撃は 収入激減、過去最大の赤字も/人気球団も動員8割以上減/年俸大幅減なし、交渉に影響

 球団の収入は入場料、放映権料、グッズ販売、広告などのスポンサー収入が柱だ。2004年の球界再編騒動を機に集客を核とするビジネスモデルを確立してきたが、大打撃を受けた。

 入場者数は楽天が12球団で一番少なく、昨季の約182万人から約23万人に落ち込んだ。

 楽天・立花氏 「入場者数の上限が50%でも、我々のキャパは最大1万3千人ぐらい。昨年は145億円の売り上げがあったが今年は約80億円。チケット収入は約75%減少し、飲食やグッズ販売も70~80%の減少。スポンサー収入は5%減にとどめたが、全体の収支としては今年は数十億円の赤字で、かなり厳しい数字。東北という地域性もあるかと思うが、球場に足を運ぶのに慎重だったのかなと個人的に考えています」

 早くから感染が広がった北海道を拠点に置く日本ハムでも客足は鈍かった。

 日本ハム・川村氏 「事業全体の話で言えば、売り上げは前年比の6割台半ば。『ゲート収入』が前年比16%と激減したのが厳しかった。ファンクラブの年齢構成で見るとうちは50歳代から60歳代半ばが一番多い。コロナ禍で家族から観戦を止められたり、自分自身でやめたり」

 12球団で観客動員が一番多い広島でも53万人台。

 広島・松田氏 「全く想定していないことが起きた。約222万人が観戦した昨季の入場料収入は57億9500万円でした。今季は5千人の試合が32試合、制限50%が24試合だったので大幅減です」

 人気球団なども例外ではなかった。

 阪神・藤原氏 「観客の安全・安心を最優先した結果、観客動員数が昨年より8割以上減少しましたので収益面については、非常に厳しい1年となりました」

 巨人・今村氏 「うちの場合、シーズンチケットの空席が多かったんです。企業が取引先を招待する時などに使ってくれているもので、コロナ禍で足が鈍ったのだと思います。実際、通常販売の売れ行きは良かったですから」

 ヤクルト・衣笠氏 「今年の収支は過去最悪の赤字になるだろう。ただ、12球団の下の2~3球団くらいに入る程度だと思う」

 DeNA・岡村氏 「昨年まで右肩上がり。今年は3年半越しで横浜スタジアムの改修が終わり、昨年は球団史上最高の約228万人の動員数で今年はもっといくんだという思いで、かつ、東京五輪で横浜スタジアムを世界に発信できるということでものすごく飛躍を期待していた。それが非常に大変な年だったというのは間違いない」

 ロッテ・河合氏 「18、19年の決算でようやく黒字化できたが、それは観客動員数が150万人を超えたから。今年は数十億円規模の赤字になるだろう」

 オリックス・湊氏 「(売り上げの)数字は非公開です。ただ、ドーム(京セラドーム大阪)と球団とで一体運営していますが、その分でいうと、数十億円の計画比減になります」

 スポンサーとの交渉も繊細なものになった。

 西武・居郷氏 「球場内の看板は『試合数が少ない分、1試合あたりいくらで返金します』という話になったが、『返金を受ける分、新たに広告を出しましょう』という結論になった。無観客開催のとき、内野席に帯(の広告)が出ていたでしょう。そこで補っていたので、大幅に減ったというのはないです」

 球団の支出のうち、選手年俸が大きく占める。年俸交渉にも影響が出ている。

 中日・矢野氏 「『今年は大赤字ですよ』という球団の事情を伝えないといけない。(今後は)できる限り維持してあげたいと思っている。選手のことを正しく見て査定してあげたい。ただ、その絶対条件は143試合できること」

 選手との契約において、「不測の事態」が起きたときに年俸を見直す決まりがない。

 ソフトバンク・後藤氏 「今年だからと言って年俸の大幅削減はない。ただ、野球協約に不備があると考える。極端に言えば、今年1試合も行われなかったとしても年俸を払うのかと。これは言わば協約の『バグ』で、修正すべき点。そこは我々もオーナー会議などで激しく主張しているが、抵抗もまだまだある」

 ■手探りの感染対策、もがき「完走」

 球界が大きく動き出したのが2月25日。巨人がオープン戦2試合を無観客で行うと発表し、翌日には12球団のオープン戦すべてが無観客開催と決まった。

 巨人・今村氏 「拙速という声もありました。ですが、ちゃんと開幕を迎えるために今は引いておこう、オープン戦の利益はあきらめましょうという思いでした」

 開幕は延期され、4月に出た緊急事態宣言でチーム練習も止まった。厳格に対応したのが楽天だ。

 楽天・立花氏 「2月のキャンプ中から、米国の感染状況についての情報が入っていて、これが日本に入ってきたら大変なことになる、と危惧していた。そこで一切の練習を中止し、コロナにかかった場合は重篤化することを前提とした対策を採った」

 他球団も苦心した。

 日本ハム・川村氏 「選手は札幌と千葉・鎌ケ谷に分かれていたため、移動制限のなか、連係した練習が難しかった」

 一方、球団は開幕に向けて消毒液などの確保に奔走していた。

 ロッテ・河合氏 「消毒用のアルコールさえなくて、(検温の)サーモグラフィーはどこにあるかも分からない。手配できるのか、コストはどうなのかも分かっていなかった」

 巨人・今村氏 「2月の段階から、(物資の)確保に動いていました。12球団で乗り切ろう、というのは早い段階でみんなで確認していました」

 中日・矢野氏 「用意をするにも、どこにも品物がない。他球団から『うちはこれが足りているので融通しましょうか』という申し出もあった。4月や5月の連休明けの開幕だったら、十数試合分くらいしか用意できていなかったのではないか」

 各球団が個別に対応しなければならない問題もあった。

 広島・松田氏 「開幕前に全試合の入場券を一斉に販売していた。結局は年間指定席を除き、全て払い戻しとなった。手続きの際は(密にならぬよう)直径約2メートルの赤い円のシートを置いてその中央に立ってもらうなど感染防止対策をとった」

 そんな苦労の末に無観客で開幕した。7月には上限5千人、9月には収容人数の50%を上限に観客が戻った。だが、これで一段落といかなかった。

 ヤクルト・衣笠氏 「(上限が緩和された)9月、最初は売り子による巡回販売をやめ、コンコースや階段の踊り場に販売ブースを作った。だが、かえって混雑し、すぐに巡回販売に戻したこともあった」

 技術実証(10月末から満席に近い形で3連戦を開催)を行った球団もある。

 DeNA・岡村氏 「今年度中に通常の状態の興行をやりたいと。来年以降につなげるという意味で。密になっていないかとか、仮に発症した場合にアプリで追跡ができるとか。それぞれが協力することで環境を作ることができるということを、それなりに証明できたのではないかと思います」

 選手の感染例も複数あったが、12球団はシーズンを「完走」した。

 ヤクルト・衣笠氏 「日本野球機構(NPB)とJリーグが合同で設置する対策連絡会議が3月に始まり、11月30日で21回(現在も継続中)。関連会議を含め、大学ノート4冊分のメモが残っている。対策に膨大な時間を費やし、やっとここまで来たという感じがする」

 ソフトバンク・後藤氏 「うちは8月に長谷川(勇也)選手が陽性と判定された。その際の対応は、他球団の教材になった部分もあると思う。パンデミックの乗り越え方は、走りながら、向き合いながら、知恵を付けていくものだと実感した」

 ■健全な経営、どう取り戻す 「安全な球場」アピール/ネット活用、新商材開発

 各地で感染者が増え続け、来季がどうなるかも見通せない。健全な球団経営をどう取り戻すのか。

 広島・松田氏 「満員の3万3千人に入ってもらうのを目標に進めていて、ビジネスモデルを変化させていくというのは考えていない。テレビやリモートで試合を見てもらう楽しみ方もあるが、最終的には球場でリアルに楽しんでもらうことが一番だと思う」

 阪神・藤原氏 「来季はまだコロナの影響が残ると思われるため難しいかもしれませんが、満員の甲子園球場でファンに楽しんでいただくことが当球団の使命だと考えています」

 オリックス・湊氏 「どうやって球場が安全な施設であることをアピールするか。ご来場いただくための『ニューノーマル』を、ファンの皆様と一緒に考えていければと思っています」

 西武・居郷氏 「野球をやっていないときにコンサートなどのイベントをしています。新型コロナの影響を受ける前は、年間4、5件だったのが、今は10件以上入るようになりました。(改修中の)メットライフドームは来年3月に完成します。来季のオフからは、どう活用してもらうかが課題になってきます」

 球場に来られないファンむけに、デジタルやバーチャル(仮想)空間に活路を見いだそうとする球団も多い。

 ソフトバンク・後藤氏 「バーチャルリアリティー(仮想現実)による観戦体験は我々の独自性を発揮できる事業ではある。様々な事情でスタジアムに足を運べない方々によりダイナミックなサービスを提供できる。ただ、すぐにそちらが主になることはないだろう。従来通りにスタジアムでサービスを体験頂くことが大前提だ」

 DeNA・岡村氏 「オンラインでコミュニティーを作って楽しむファンがいるかもしれない。例えば『今永応援隊』とか『ベイスターズの集い』っていうコミュニティーがあって、そこで試合を見たり、誰か1人の選手だけを追っている映像があったりしてもいいかもしれない。今までとは違うファン層を開拓できるんじゃないかなと思っている」

 ヤクルト・衣笠氏 「入場料収入に頼らないビジネスモデルも作る必要が出てきている。eコマース電子商取引)への注力、インターネットを使った選手とファンとの交流など新たな商材を開発していきたい」

 経営構造そのものの将来的な見直しに言及する経営者もいる。

 楽天・立花氏 「将来の野球界にとって、球団の健全経営は重要なファクター(要素)。それがプロスポーツ界を守り、活性化につながる。こうした状況で、どこまで選手年俸を右肩上がりに続けられるか。グローバルな視点で見ると、プロスポーツの年収は新しいビジネスモデルを作らないと厳しい。分岐点に来ているかもしれない」

 巨人・今村氏 「コロナ禍は全てを見直す契機でもあると思います。経費を削り、赤字になりにくい体質の組織にしなければいけません。もう一度、既成概念を取り払って優先順位を付け直そうとしています」

 ロッテ・河合氏 「中長期で事業選択のポートフォリオ(配分)をどう組むかが重要になる。今年は取り組もうとしてきたことがある程度見えてきた。(eコマースの活用や、需要と供給に応じて価格が変動するダイナミックプライシングの導入など)これだけ今年に芽が出てくれば、そこから取捨選択できる」

     ◇

 各球団社長らのインタビューは17日から朝日新聞デジタルで随時、詳報します。

 ■コスト削減、選手年俸に上限必要 スポーツコンサルタント・鈴木友也さん

 非常時の今は、出血を止めることが最優先。新たな収益源を探すより先に、コスト削減を考えた方がいい。着手すべき対象の一つは選手の年俸です。米プロバスケットボールNBAでは、労使協定で年俸上限を定める「サラリーキャップ」が導入され、非常事態で試合が減れば、年俸も下がる条項もあります。リーグ全体の収益を労使で共有し、分配する仕組みで、チームの経営情報の透明性が担保されます。収入が増えれば年俸も上がる。選手とチームが危機を一緒に乗り越えやすい。経営の安定と戦力均衡につながる。プロ野球は労使協定もサラリーキャップもなく、球団が利益を内部留保しにくい。日本球界も考えるべきです。

 NPBやセ、パ両リーグは普段できないことを実験的にやってみては。大リーグではナ・リーグでもDH(指名打者)制を採用し、延長ではタイブレーク制も導入。試合時間の短縮につながります。球審をAIにしてもいい。非常時だからこそ、試せることがあります。

 ■まずは、デジタル化による変革を 元ソフトバンク球団取締役/桜美林大・小林至教授

 今は、台風が来ている状況です。コロナの中でもうけるのではなく、コロナの後によりよいサービスを提供し、収益をあげられるように準備する時期です。

 まずは、どの球団も、デジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル化による変革)に取り組むべきです。例えば、楽天がいち早く進めた球場でのキャッシュレス化。顧客の購買や行動の履歴を追うことで、顧客に合わせたサービス提供や価格設定ができるようになります。

 DeNAはバーチャルリアリティー(VR)を活用し、オンライン上に「ハマスタ」を作りました。各球団は、SNSを通じたファンとの交流も進めています。こうした積み重ねがコロナの後に生きます。

 セ、パ両リーグの格差はビジネス面でも大きい。パ・リーグ6球団が設立した会社は、試合をライブ配信する事業が好調です。集客のノウハウの共有もしています。対するセ・リーグは遅れている。今は、リーグの協業を考え直すいい機会です。

 ■2020年シーズンの動き

 <2月26日> 残りのオープン戦を無観客で実施へ

 <3月3日> 第1回NPB・Jリーグ対策連絡会議 

 <9日> 20日の開幕延期が決定

 <23日> 4月24日の開幕をめざすことを決定

 <26日> 藤浪ら阪神の3選手がプロ野球選手初の陽性判定

 <4月3日> 24日の開幕を断念。開幕日を設定できず、試合数削減の方針も発表

 <7日> 7都府県に緊急事態宣言。16日には宣言が全国に拡大

 <5月12日> オーナー会議で6月19日の開幕方針で一致

 <25日> 緊急事態宣言が解除。6月19日に無観客での開幕を発表

 <6月3日> 坂本ら巨人の2選手が陽性判定

 <19日> セ、パ両リーグが無観客で同時開幕

 <7月10日> 無観客から上限5千人に緩和して試合開催

 <8月1日> ソフトバンクの2軍で調整中の長谷川が陽性判定。翌2日、1軍試合がコロナ禍で初めて中止に

 <9月19日> 観客数の上限が収容人数の50%以内に緩和

 <25日> 24日判明分と合わせ阪神の5選手が陽性判定。計19選手を入れ替えて試合を実施

 <10月6日> 4日判明分と合わせロッテの8選手が陽性判定。計22選手を入れ替えて試合を実施。最終的にスタッフ含め計14人が感染

 <27日> パ・リーグでソフトバンクが優勝

 <30日> セ・リーグで巨人が優勝

 <11月25日> 日本シリーズでソフトバンクが4連覇

 ■12球団の取材対応者

 【ソフトバンク】

 後藤芳光球団社長兼オーナー代行

 【ロッテ】

 河合克美オーナー代行兼球団社長

 【西武】

 居郷肇球団社長

 【楽天】

 立花陽三球団社長兼オーナー代行

 【日本ハム】

 川村浩二球団社長兼オーナー代行

 【オリックス】

 湊通夫球団社長兼オーナー代行

 【巨人】

 今村司球団社長

 【阪神】

 藤原崇起オーナー兼球団社長

 【中日】

 矢野博也球団社長

 【DeNA】

 岡村信悟球団社長

 【広島】

 松田一宏オーナー代行

 【ヤクルト】

 衣笠剛球団社長兼オーナー代行

 (阪神の藤原氏は書面インタビュー)

 <訂正して、おわびします>

 ▼17日付スポーツ面「異例ずくめ 球団経営苦心」の記事中、楽天の立花陽三球団社長兼オーナー代行の発言で、チケット収入が「約75億円減少」とあるのは「約75%減少」の誤りでした。また、ヤクルトの衣笠剛球団社長兼オーナー代行の発言で「入場料収人」とあるのは「入場料収入」の誤りでした。いずれも入力を誤りました。

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