(社説)欧州コロナ再燃 「対岸の火事」とせず

社説

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 冬に向かう欧州で新型コロナの感染拡大が深刻さを増している。入院患者や重症者が急増し、医療現場が逼迫(ひっぱく)する事態となっている。フランスが全土を対象に外出禁止令に踏み切ったほか、多くの国で飲食店などへの規制強化に乗り出した。

 春に大きな流行を経験しているにもかかわらず、再び感染爆発を招いてしまったのはなぜなのか。欧州経済が大きく落ち込めば、持ち直し始めた日本の経済にも影響しかねない。政府や専門家は流行の背景にある事情や原因の分析を急ぐべきだ。

 気になるのが季節との関連だ。気温や湿度が低くなるとウイルスが伝播(でんぱ)しやすくなるとの報告もある。スパコンを用いて、せきによる飛沫(ひまつ)がどのように拡散するかを調べた実験では、湿度が下がるにつれ、落下する飛沫が減り、より細かな粒子となって空中を漂うとの結果も出ている。

 累積の感染者が10万人を超えた日本でも、北海道や東北の一部などで感染が拡大傾向にある。寒くなれば空気は乾燥し、屋内で過ごす時間も増える。暖房を使えば換気はおろそかになりがちだ。西村康稔担当相も寒冷地対策の必要性に言及している。具体的な注意点を早めに示して欲しい。

 菅首相は「爆発的な感染は絶対に防ぐ」と繰り返すが、政府の備えは十分と言いがたい。

 緊急事態宣言下では、飲食店などに対する休業要請に対して多くの自治体が独自に協力金を支給したが、もはや財政的な余裕はどこもほとんどない。6月下旬からの「第2波」では、営業時間の短縮要請に応じない店も多かった。

 全国知事会からは、休業要請に実効性を持たせる措置やそれに伴う協力金に関する要望が繰り返し出されている。臨時国会が始まったが、こうした検討はたなざらしにされたままだ。

 折しも今月、シンクタンクが設置した民間臨時調査会が、政治家や官僚、専門家らへのインタビューをもとに、政府の対応を検証した報告書を公表した。

 「泥縄だったけど、結果オーライ」とする官邸スタッフの証言を紹介し、安倍前首相が「日本モデル」と自賛した一連の対応について「様々な制約条件と限られたリソースの中で、政策担当者が必死に知恵を絞った場当たり的な判断の積み重ねであった」と評した。こうした作業は本来、政府や国会が率先して行うべきではないか。

 海外との往来も再開しつつあり、欧州での感染爆発を「対岸の火事」で済ませてはならない。最悪の事態も想定し、政府は早急に実効性を伴った政策のパッケージを整えるべきだ。

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