(フロントランナー)白石康次郎さん 「やりたいことをやるから、常にワクワク」

フロントランナー

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 (1面から続く)

 ――単独無寄港・無補給の世界一周レース、ヴァンデ・グローブの魅力とは?

ここから続き

 本当に、人生を懸けた冒険ということでしょう。完走率は50%程度。生きて帰ってこられるのかすら分からない。それでも、チャレンジする。だからこそ、リタイアしようが何をしようが、人の心を揺さぶる何かがある。みんな私財をなげうって、人生を懸けています。失敗するかもしれないからやめる、成功の保証がある。そんなことには、誰の心も動きません。

 ――3カ月間のヨットレースにはどんな苦労が?

 寝ている時も、トイレにいる時も、2千時間ノンストップ。一度スタートしたら、どんなトラブルが起きようが時計はもう止まりません。1時間以内の仮眠しかできないし、けがをしても休めない。最悪、自分で自分を手術して先に進まないと。船が壊れたら、自力で直さないといけない。体力も精神力も削られます。でも、大変だからこそ、最高に充実していて楽しい。

 ――今秋のレースに出るために、約20億円を集めたと聞きました。

 よく質問されます。「どうすればそんなにスポンサーを集められるの」って。僕の企画書に、もうけ話は一つも書いていない。成績を出したって、企業の商品は売れませんからね。企画でもテクニックでもない、結局はハートの部分。なぜ僕のサポートを?とスポンサーに聞いたことがあります。みんな、「人柄だよ」と。エネルギッシュで「楽しいんです。最高に!」って、うそ偽りなく全てをヨットに懸けている。採算が合わないと初めから分かっているんだから、常識でやろうとしても無理です。

 ■自分との対話

 ――海の上に、ひとりぼっちで3カ月。孤独では。

 その質問には「なぜ孤独だと思うんですか」と返したい。僕には夢があり、希望があり、目の前にみんなと作った愛艇がある。水平線の先にはライバルもいて港では家族が帰りを待っている。どこに孤独がありますか。都会の真ん中で夢も目標も希望もなく、肩が当たる満員電車に揺られている人こそ孤独かもしれない。大切なのは、あなたが今、好きなことをやれているかどうか。1人だから孤独?違う。自分と対話できているかどうかで、現状の捉え方は違ってくるはずです。

 ――前回大会は途中リタイアながら、帰国後にテレビ局から表彰されました。

 子どもたちに負けっぷりを見せたいと思って、堂々ともらいました。表彰式にはリオデジャネイロ五輪のメダリストがずらり。でも、僕もこれ以上は絶対に無理ってくらい一生懸命やりきった。だから、めちゃくちゃ悔しいけど、恥ずかしくなんてない。それで負けたのはもう、仕方ない。勝負は勝ち負けがあるから面白いんです。負けるのは悪いことじゃない。全力でやった失敗には、学べることがある。ダメなのは、やりたいことがあるのにチャレンジしないことですよ。

 ――どんな少年時代だったのでしょう。

 勉強はできませんでした。先生の言うことを聞いていても世界一周はできない、と思っていたから。やりたいのは、日本で誰もやったことがないこと。良い大学を出て常識にとらわれている先生に、未知の世界や奇跡の起こし方が分かるわけないって。国立の中学に通っていて「水産高に行きたい」って伝えたら先生は驚いていました。けど、直感を信じて生きてきました。

 ■ひどい船酔い

 ――自分がヨットに向いていると思ったのは?

 才能があったなんて一度も思ったことありません。海が好きなのに、船酔いがひどいんだから。今も出港から1週間は気持ちが悪い。まるで向いていなかった。残念。だから、ここまで30年以上かかった。得意と言えば、球技の方がずっと得意。でも、関係ない。ワクワクするのはヨット。やりたいことをやらないと。

 ――初めて世界一周をした時は26歳。53歳になった今、体力的な問題は?

 パワーは変わらなくても、回復力がやっぱり違う。でもね、無理ができないなら、組み立てを変えればいい。トレーニング方法とか。年齢との闘いも、ここから面白いですよ。頭と体のギャップをどう埋めるか。替えがきかないこの箱(体)を壊さず、どう世界一周持たせるか。今までにない新しい体験です。また楽しみが増えました。

 ――何事にもめげず、いつも明るくいられるのは?

 好奇心が僕のエネルギーだから。誰に負けたとか勝ったとか、人のことはどうでもいい。やりたいことをやっているから常にワクワク。お金もどうでもいい。そうやっていると、サポートしようっていう人が出てくるものなんです。人間の最強の力は好きなことをやること。笑顔で幸せになれる。「好きなことばっかりやってちゃダメ」なんて言っている大人の顔を見て下さい。だいたい、つまらなそうな顔をしてますから。

 ■プロフィル

 ★1967年、東京都生まれ、神奈川県鎌倉市育ち。小学1年の時、母親が交通事故で死去。写真は小学生のころ。船舶の機関士をめざして同県立三崎水産高(現・海洋科学高)に入学したが、在学中、世界一周ヨットレースを制した故・多田雄幸氏に弟子入り。

 ★92年、ヨットによる単独無寄港、無補給の世界一周に挑戦するも2度連続で失敗。26歳だった94年、3度目の挑戦を176日間で成功させた。当時の史上最年少記録だった。

 ★2000年、「鉱次郎」から「康次郎」に改名。理由は「バージョンアップしたかったから」。

 ★03年、07年に単独世界一周レース(寄港地あり)に参戦し、いずれも完走。

 ★16年、「ヴァンデ・グローブ」に初出場するも途中リタイア。今年7月に予選レースを完走して再び出場権をつかみ、11月、フランスをスタートする予定。

 ◆次回は、NPO法人キープ・ママ・スマイリング理事長の光原ゆきさんです。娘を亡くした後、病児の入院に付きそう親への食事支援を全国で展開し始めました。

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