(社説)コメ政策 時計の針を元に戻すな

社説

[PR]

 コメの価格が6年ぶりに下落に転じた。農林水産省が先週公表した今年産の9月の業者間の平均取引価格は、60キログラムあたり1万5143円で、前年産を676円(4%)下回った。コロナ禍で外食の需要が落ち込んだうえ、今年産の収穫量が昨年産を上回り、在庫が積み上がる見通しだからだ。

 自民党族議員からは、救済を求める声が出ている。先日開かれた党の会合では、18年に廃止した生産調整(減反)の復活や、税金でコメを買い上げて海外援助に回すことなどを求める意見が出た。

 米価は地域経済への影響が小さくない。水田は景観や環境を守る役割も担っている。

 だが、コロナ禍で打撃を受けたのはコメ農家だけではない。4月の経済対策では、自民党の部会が「お肉券」「お魚券」を提案したものの、世論の猛反発で撤回に追い込まれた。

 コメ農家には、減収分の9割を主に国費で補填(ほてん)する保険制度がある。そのうえ更に、税金を使うことに、納税者の理解が得られるだろうか。

 食生活の変化で長く減少してきた主食用米の需要は、近年減少ペースが一段と加速してきた。一因とされるのが、5年連続で上昇した米価だ。

 政府が補助金を積み増して転作を促した結果、米価は15年産から上昇に転じた。これで転作の機運は下がったが、近年の天候不順で収穫が抑えられ、深刻なコメ余りを免れてきた。

 コロナ禍が無かったとしても、米価の下落は、時間の問題だったと言えよう。いまの水準の価格は見直さざるを得ないという現実を、関係者は冷静に受け止める必要がある。

 今後も人口減で、国内需要は減る可能性が高い。生産基盤を維持するためには、国際相場と比べて高いコメの価格を引き下げ、輸出拡大などに努めるしかないのではないか。

 高い米価を維持することは、消費者に負担を強いるばかりか、長期的には農家にとってもマイナスになる。

 今より安い価格でも経営が成り立つコメ農家の育成に、政府は政策の力点を移す必要がある。農地の集約など生産性向上につながる政策に、税金は集中的に投入するべきだ。コメづくりをやめた農地が無秩序に開発されないよう、目配りすることも欠かせない。

 政府が減反を廃止したのは、農家が自ら需要を見極めて生産を決める仕組みにすることで、創意工夫を促すためだった。需給の乖離(かいり)を安易に税金で穴埋めすれば、改革の理念は失われてしまう。コメ政策の時計の針を元に戻してはならない。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら