(社説)原子力政策 課題先送り繰り返すな

社説

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 課題が先送りされた7年8カ月だった。安倍前政権におけるエネルギー政策である。

 象徴的な分野が、原子力だ。

 東京電力福島第一原発の事故後に民主党政権が決めた「2030年代に原発ゼロ」政策を撤回。「重要なベースロード電源」との位置づけに変え、安全が確認できたものは再稼働する方針を打ち出した。15年には、全電源に占める原発の比率を30年度に20~22%と、福島の事故前に近い水準に設定した。

 この年以降、9基が再稼働したが、18年夏以降は途絶えている。7基が新規制基準に適合すると認められているが、地元同意のメドが立たないところもあって動かせていない。

 政府は目標を掲げたものの、再稼働の是非の判断は原子力規制委員会に、実際に稼働させるかどうかは地元自治体と電力会社に丸投げし、現実は政府の計画とかけ離れたままだ。

 成長戦略として力を注いだ原発輸出も頓挫した。安倍内閣の総辞職と同じ一昨日、日立製作所が英国での建設プロジェクトからの撤退を決定。実現が見込める案件はなくなった。

 破綻(はたん)が明らかな核燃料サイクル政策を堅持してきたことは、国際問題にもなっている。使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して再利用する方針だが、原発の稼働が広がらないため使い道はなく、核兵器の材料にもなるプルトニウムが積み上がっているからだ。

 福島の事故を経て原発を巡る内外の情勢が一変したにもかかわらず、政策を先祖返りさせた結果、さまざまな矛盾が噴き出していると言える。

 新政権は、そんな現状をどう打開するつもりなのか。

 菅義偉首相は就任直後の会見で「エネルギーの安定供給もしっかり取り組んでいく」と言及したが、具体像は見えない。

 福島第一のほか老朽化した原発も廃炉が決まり、原発の設備容量は事故前より約3割減った。原発比率の政府目標は達成が絶望的になっている。

 来年夏には、3年に1度と定められるエネルギー基本計画の見直しが始まる。現実を直視すれば当然、次期計画では原発への依存度を下げるしかない。それは、将来の原発ゼロへの道筋にもつながるだろう。

 政府が原発に固執する結果、再生可能エネルギーの潜在力を低く見積もることにつながっていないか。「既得権益、あしき前例主義を打ち破る」と述べた菅首相は、エネルギー政策の転換でも先頭に立つべきだ。

 コロナ後の社会では、エネルギー需要が一変することも予想される。政策を抜本的に作りかえる好機にする必要がある。

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