「オンライン授業に本格的に取り組むチャンスだ」。政府が小中高校などの一斉休校を打ち出した2月末、東京都台東区で学習塾「進学個別桜学舎(おうがくしゃ)」を営む亀山卓郎(52)は意気込んでいた。すぐ準備にとりかかり、他の塾より早い3月の2週目から始めた。

 しかし、長続きしなかった。3月末に中止し、4月は塾を閉めた。もともとオンライン授業には前向きで、コロナ禍の前から少しずつ挑戦して手応えもあった。なぜうまくいかなかったのか。

 「すべてオンラインになった途端、講師たちが疲弊して……」。画面の先を意識するあまり、声を張り上げてしまう。生徒の手元が映らず、どこまで解けたのかがわからない。突然、画面から消えてしまう子もいた。

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 保護者が子供の横に座るようになったのも悩ましかった。ある母親は「あんた、なんでわからないの!」と怒り出した。子供の耳元で答えをささやく親もいた。「常に授業参観のようで、講師たちにはストレスでした」

 思春期ならではの難しさもあった。「中学生は自分の顔が映るのを嫌がって、10人のうち3、4人はウェブカメラを使わない」。音の重なりを防ぐため、生徒は発言時以外は音を切っているので、画像も音もない状態が続く。「おい、○○、いるのか?」と亀山が呼びかけると、間をおいて「いまーす」と声だけがかえってくる。

 「子供は大人の思い通りには動かないですよ。会社の会議とは違う。死角が多いオンラインだけだと、授業の質を確保できない。小規模な塾でさえ、そうなのだから、1クラス30~40人の学校では相当大変でしょう」

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 文部科学省の6月時点の調査によると、小中学校でオンライン授業をした教育委員会は1割。政府はコロナ禍を受け、全国の小中学生に1人1台ずつ電子端末を配る構想を前倒ししているが、どれほど活用されるかはわからない。

 対面授業とオンライン授業を併用している亀山の現時点での結論はこうだ。「オンラインは、やる気のある小学校高学年以上の子に補完手段として使えば、大きな効果がある」。昨年、亀山の塾の近所から千葉へ転校した中3の女子生徒は「塾は変えたくない」と週3回の授業のうち2回をオンラインで受けた。月を追うごとに学力が伸び、志望校に合格した。

 亀山がオンライン授業に初めて取り組んだのは2年前の夏。きっかけは、その半年前に知り合った北海道釧路市の学習塾「月見学道」学長の月見和史(かずひと)(49)の一言だった。「父親の赴任先のインドにいる小学生に中学受験のための勉強を教えることになって。手伝ってもらえませんか」

 インターネット電話のスカイプで月見が国語、亀山が算数を教えた。インドの通信環境は悪く、時折画面が消えたが、2人とも「こんなに離れていても授業ができるのか」と新鮮な驚きがあった。

 このときの経験をもとに月見は今春から、塾のホームページでオンライン授業の受講者を募っている。コロナ禍によるZoom(ズーム)などウェブ会議システムの浸透に月見は期待を寄せる。「国内だけでなく海外在住の子も含めれば、一定の需要はあるのではないでしょうか」=敬称略(土屋亮)

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