(社説)菅新総裁選出 総括なき圧勝の危うさ

社説

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 安倍首相の突然の辞意表明を受け、公式に名乗りをあげてからわずか10日余り。7年8カ月に及ぶ長期政権の総括も、この国の将来像をめぐる政策論争も不十分なまま、菅義偉官房長官が次の首相となる自民党の新総裁に決まった。

 国会議員票の7割超、都道府県連票の6割超を獲得する圧勝だった。党員・党友による投票は行われなかったが、秋田を除く地方組織は、予備選などによって投票先を決めた。より一般の有権者に近いといわれる党員らの間でも、菅氏支持が広がっていたことは間違いない。

 コロナ禍が続くなかでの、急な首相交代である。変化より安心を求める心理が、「継承」を前面に掲げた菅氏を後押しした面があるのかもしれない。

 しかし、自らへの支持を過信して、安倍政権の行き詰まりを直視できなければ、継承の先の前進は難しかろう。圧勝の内実の危うさを自覚すべきだ。

 政治や行政への信頼を深く傷つけた森友学園加計学園桜を見る会の問題について、菅氏は決着済みとの姿勢に終始している。菅氏はきのう「国民から信頼される政府をつくっていきたい」と語ったが、負の遺産にフタをしたまま、それができると考えているのだろうか。

 コロナ禍で雇用情勢は暗転し、外国人観光客に頼った地域振興も難しくなった。ロシアとの平和条約交渉や拉致問題などの外交課題も前に進んでいない。コロナ対策にしても、多くの国民の目に後手後手、迷走と映ったこれまでのあり方を謙虚に見つめ直し、教訓をくみとることなしに有効な手立てを講じることはできまい。

 菅氏の勝利は、党内5派閥の支持により、総裁選の告示前に事実上決していた。自らは無派閥であることを強調するが、勝ち馬に乗って主流派であり続けることを最優先した、国民そっちのけの派閥の合従連衡の結果であることを、決して忘れてはならない。

 あすの臨時国会で首相指名選挙が行われ、菅内閣が発足する。菅氏は派閥の要望は受け付けず、改革意欲のある人を起用すると繰り返してきたが、自らを総裁に押し上げてくれた派閥の圧力を受け流せるのか。「国民のために働く内閣をつくる」という決意が試される。

 菅氏はまた、自民党の旗の下での「一致団結」を訴えた。であれば、今回、総裁選を戦った岸田文雄政調会長石破茂元幹事長の要職での起用を考えてもいいのではないか。それは、自らに批判的な勢力を遠ざけ、党内から闊達(かったつ)な議論の空気を奪った「安倍政治」の見直しにつながるだろう。

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