今年も豪雨による洪水・浸水や、災害級といわれる酷暑によって多くの犠牲者が出ている。9月1日は防災の日。身の安全をどうやって守るか、考え、話し合い、備える日としたい。

 大きな心配は、新型コロナ禍の影響で自治体の防災対策が遅れがちなことだ。

 例えば、関東から九州まで広い範囲で起こる南海トラフ地震への対応だ。震源域全体が一気に動いたときにはマグニチュード9級の超巨大地震になる。

 最近の研究では、まず震源域が半分動いて巨大地震を引き起こした後、しばらくしてから残る半分が動く可能性があるとされる。この場合、国は最初の地震後に「臨時情報」を出し、市町村は危険地域の住民に1週間の事前避難を呼びかける。

 国は昨年、津波が想定される14都県の139市町村に対し、今年3月までに事前避難すべき地域を指定し、対策推進計画をつくり直すように通知した。だが4月時点で指定を終えた自治体は51にとどまる。

 最大22メートルの津波が襲う三重県南伊勢町は、地区によって津波の到達時刻が異なるうえ高齢者が多い集落もあり、作業が難航している。静岡県富士市は、約800人が住む13地域を指定する予定だが、コロナの感染防止のため避難所の収容人数を絞る必要が生じ、施設の確保に追われる。3密回避で防災会議を開けていない自治体もある。

 現場の担当者から聞こえてくるのは、1週間も事前避難生活を送る必要性を、住民に理解してもらう難しさだ。国は自治体にただ通知を出すだけでなく、その理由や切迫度の広報・周知にもっと力を注ぐべきだ。

 ほかにも、避難先をどうやって確保したらいいのかなど、国が施策を発表した当初から様々な課題が浮上している。ところが内閣府は、昨年度に自治体向けの説明会を関東や東海など6ブロックで数回ずつ開いただけだ。これでは、地方に丸投げとのそしりを免れない。

 ウェブ会議システムなども活用して、第一線に立つ自治体を丁寧に手引きする必要がある。地震は人間の都合にかまわず起きる。この当たり前のことを胸に準備を急ぐべきだ。

 個人の取り組みも重要だ。

 今年はコロナ禍のせいで、防災の日恒例の住民参加の大規模な訓練を取りやめる自治体が多い。かわりに「家族防災会議」の開催を呼びかけ、家具の固定や備蓄品の点検、自宅周辺の危険箇所の確認などを促そうという動きが広がる。

 地震だけではない。台風による風水害の季節にも向かう。いざという時の対応を一人ひとり点検しておこう。