総力結集 120万党員達成へ――。真っ赤な下地に白抜き文字で党員獲得を呼びかけるポスターがいたる所に貼られた東京・永田町の自民党本部。その中枢にある党幹事長室に8月3日、20人を超える議員が次々と訪れた。

 催されていたのは、2018年の党員獲得数上位者への表彰式。幹事長の二階俊博は、国会対策委員長の森山裕らベテランから当選3回の若手まで、集った一人ひとりに深々と頭を下げて「金一封」を手渡した。

 ただ、2年連続で表彰された若手の口から漏れたのは、喜びではなく現状への不満だった。「地方、党員があってこその自民党。それが分かっていない国会議員が多すぎる」

 党員は、総裁選をはじめとする党の活動に参加できる資格だ。一般党員は年4千円を払う必要があり、いざ選挙となれば運動の実動部隊にもなる。その数は、昨年108万6千人余り。前年比1・3%減となり、2012年末に発足した第2次安倍政権で初の減少に転じた。

 党員数は、党の足腰の強さを測る指標の一つとなる。1991年には546・5万人を数えたこともある党員を一人でも増やすことが、二階の使命でもある。今年3月の両院議員総会では「120万人の目標に向けて頑張ろう」と意気込みを語った。

 なぜ、党員数が減少に転じたのか。2年前の総裁選で地方から高い支持を得た元幹事長の石破茂は「『自民党なんかおかしいよね』という感覚的なずれの積み重ね。普通のおじさん、おばさんを離れさせている」。中央での「1強」政治が要因になっているとの見方を示す。

 09年夏の衆院選に敗れて下野した自民党は、再起に向け地方との対話に力を入れた。総裁だった谷垣禎一をはじめ党幹部らが全国各地を訪れる「ふるさと対話集会」をスタート。少人数の車座集会を重ね、地方の声に耳を傾ける姿勢をアピールした。3年でこなした数は、のべ約430カ所。谷垣は当時「自民党の人材や政策を十分に伝えることが大切だ。地道な努力を続けるしかない」と語っていた。

 「対話集会」は今も開かれているが、その変質を指摘する声もある。党幹部は「かつてはこちらから足を運んだような人たちに、いまは党本部に来てもらうことが増えた」。衆院ベテランは、公職選挙法違反(買収)の罪で起訴された前法相の河井克行被告と妻・案里被告の事件や、森友学園、桜を見る会の問題など「地元で説明できないことがあまりに多い」と嘆く。

 「地方と対話」としながら、永田町の事情に協力を仰ぐような会合も目立つ。

 政調会長の岸田文雄は昨年秋以降、地方の声を政策に反映させる「地方政調会」の主要テーマに、憲法改正を据えた。首相の安倍晋三がめざす憲法改正の機運を醸成させるのがねらいだった。二階も同じころ、地元和歌山で千人規模の「憲法集会」を開いた。

 ただ、党内からは「党幹部が総理に『憲法改正に取り組んでいます』とみせる場」(岸田派中堅)との冷めた声が出る。関西地方の市議は、地方政調会で憲法を取り上げることを疑問視。「地方の意見を反映するというなら、決定権を与えてほしい」と訴える。

 最近は、地方の不満が選挙での足並みの乱れとなって噴出することもしばしばだ。保守王国・島根県では昨春、竹下亘・元総務会長ら県選出の国会議員が推す候補に中堅・若手県議らが反発。44年ぶりの保守分裂選挙になり、独自候補を立てた県議側が接戦を制した。県議らの中心となった島根県議の五百川純寿は「安倍首相をはじめ、いまの党幹部の言葉に責任感を感じない」と手厳しい。

 首相の党総裁任期は来年9月まで。その翌月には、いまの衆院議員が任期満了となる。「次」をにらむ党幹部らは「地方重視」を軸にグループを作り、地方に向けたメッセージを強めようとしている。

 ポスト安倍を争う総裁選では、党員の投票も地方票としてカウントされるが、過去2回の「地方の意思」の扱いに地方議員の不満もくすぶる。12年の総裁選では石破が地方票で他候補を大きく上回り、18年も45%の支持を得たが、その地方の意思が置き去りにされていないか――。中国地方のベテラン県議は「当然不満はある」。神戸市議は「昔なら地方の反乱が起こっているような状況。それが起こらないくらい地方は疲弊している」とぼやく。

 長期政権の節目が近づくいま、自民党は地方とどう向き合うのか。「国民政党」としてのあり方が問われる。=終わり(敬称略)(野平悠一、松山尚幹)

 <訂正して、おわびします>

 ▼8日付総合4面「長期政権の果てに 自民党のいま(6)地方」の記事で、8月3日に催された党員獲得数上位者への表彰式の対象が「2019年」とあるのは、「2018年」の誤りでした。昨年分の表彰式と思い込み、確認も不十分でした。