(社説)氾濫への備え 「複眼」で幅広く検討を

社説

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 各地に河川の氾濫(はんらん)をもたらした「7月豪雨」の被災地では、復旧・復興へ懸命の取り組みが続く。とりわけ、多くの犠牲者が出た熊本県南部への支援に全力をあげねばならない。

 その一方で、防災の対策の検証と見直しも課題だ。

 熊本豪雨で氾濫し、「暴れ川」の異名通り、過去にも浸水被害を生じさせてきた球磨川では、かつてその支流で建設が計画され、中止された川辺川ダムが改めて注目されている。

 国が1966年に発表した計画は、地元で賛否が分かれて難航。2008年に蒲島郁夫熊本県知事が反対を表明し、民主党政権下の09年に中止された。

 川辺川ダムがあれば、今回の被害を防止・軽減できたのか。ダムが下流の水位を抑える効果をもつのは確かだが、問題は単純ではない。計画は65年に起きた水害をもとに「2日間の総雨量440ミリ」が前提だったが、7月上旬の豪雨では、24時間で400ミリ超の雨が球磨川流域の各地で観測されたからだ。

 雨量が想定を超えれば、ダムの決壊を防ぐために緊急放流を迫られる。実際、今回も球磨川上流にある市房ダムが緊急放流寸前の事態となった。2年前の西日本豪雨では、愛媛県内での緊急放流が被害を拡大させたとして裁判になっている。

 「想定外」の大雨は、毎年のように降っている。国は既存のダムについて発電や農業用の貯水分を事前に放流しておく対策を進めているが、その実効性を含め、ダムの功罪を冷静かつ多角的に議論する必要がある。

 蒲島知事はダムによらない治水を追求し続ける考えを示したが、この12年間の対応が問われよう。国と県は、川底の掘削や堤防かさ上げ、遊水地の設置などを組み合わせた10のダム代替案をまとめたが、その事業費は2800億~1兆2千億円、工期も45~200年に及ぶ。実現の可能性を含め流域の市町村と検討作業を急がねばならない。

 国土交通省は7月、流域治水という考え方を打ち出した。ダムや堤防だけに頼らず、避難体制の強化や土地利用の見直しも含め、官民が協力し被害を防ぐ狙いだ。施設整備への偏重がしばしば批判されてきた国交省の「転換」が注目されている。

 7月豪雨では、球磨川とともに日本三大急流に数えられる山形県最上川も氾濫したが、流域の大石田町では大きな被害を免れた。熊本のケースも踏まえ、住民に早めの避難を呼びかけたことが奏功したという。

 特定の施策の是非にとどまらず、ハード・ソフト両面の対策を多様な視点から広く検討し、できることを着実に実行していく。その姿勢を徹底したい。

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