(社説)最低賃金 引き上げの歩み継続を

社説

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 今年度の最低賃金について、厚生労働省の審議会が引き上げ額の目安を示すことは困難として、「現行水準を維持することが適当」との答申をまとめた。

 新型コロナウイルスの影響で経済・雇用環境が悪化するなか、経営側の「引き上げ凍結」の主張に配慮した形だ。引き上げの旗を振ってきた安倍首相が「今は官民を挙げて雇用を守ることが最優先課題」と、慎重姿勢に転じた影響も大きい。

 たしかに先行きはなかなか見通せない。しかし最低賃金には生活を守るセーフティーネット(安全網)の役割がある。日本の水準は主要先進国の中でも低く、非正規雇用で働く人たちの待遇改善は急務だ。

 物流や小売り、医療・福祉の現場などでは、最低賃金やそれに近い賃金で働く人たちが少なくない。暮らしを支える働き手に報いる必要もある。

 答申をもとにこれから、地方の審議会が都道府県ごとの最低賃金を決める。コロナ禍の影響は地域によって様々だ。

 中央の審議会で改定の目安が示されないのは、IT不況下の2000年代前半やリーマン・ショック後の09年度など過去にも例があるが、その02年度は約4割、04年度は9割以上の地域が引き上げた。実情に応じて可能な限り、引き上げを目指してほしい。

 現在、最低賃金は全国加重平均で901円だが、実際にこれを上回るのは7都府県に過ぎない。最も高い東京(時給1013円)と最も低い青森、鹿児島など15県(同790円)の差は223円あり、最低賃金が低い地域から高い地域へと、働き手の流出が加速することが心配されている。

 時給790円では、1日8時間、20日働いても月13万円に満たない。労働側は、最低賃金が時給800円を下回る地域をなくすよう求めていた。答申には「地域間格差の縮小を求める意見も勘案しつつ、適切に審議が行われることを希望する」との意見が付された。地方の審議会でしっかり議論してほしい。

 中立的な立場の公益委員の見解には、来年度の審議について「最低賃金はさらなる引き上げを目指すことが社会的に求められていることも踏まえ、議論を行うことが適当」との注文もある。経済が回復基調に戻った時には最大限の引き上げを目指すべきだということを、忘れてはならない。

 そのための環境整備が政府には求められる。経営の厳しい中小・零細企業への支援、大企業と下請けの取引条件の改善など、課題は多い。

 賃金底上げの流れが途絶えぬよう、尽力する必要がある。

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