(社説)高齢者施設 災害死を防ぐために

社説

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 高齢者施設が自然災害に直撃され、入所者が命を落とす悲劇が再び起きた。自力で避難することが難しい人たちをどう守るか。問題点を検証し、対策を重ねていかねばならない。

 今月上旬の熊本豪雨で、球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」の14人が亡くなった。80~90代の人たちだった。

 園は球磨川とその支流の合流点に近く、浸水想定区域にある。4日早朝に川が氾濫(はんらん)。宿直の職員と近所の住民が入所者らを2階に移したが、約70人のうち40人ほどを上げた時点で水が建物内に流れ込み、水かさが一気に増したという。

 園は水防法で義務づけられた避難確保計画を作っており、年に2回、住民も協力して高台への避難訓練をしていた。それでも多数の犠牲者を出した事実は重い。行方不明者の捜索や避難者らへの生活支援を優先しつつ、自治体と国は協力して検証を尽くす必要がある。

 まず問われるのは、事前に避難できなかったかという点だろう。村は浸水前日の3日夕に「避難準備・高齢者等避難開始」を発表し、同日夜に避難勧告を、翌4日未明には避難指示を出していた。

 一連の発信が園にどう伝わり、受け止められていたか。夜間は職員が手薄になるなど避難が難しいだけに、3日夕に動けなかったか。他にも、上の階に逃げる垂直避難への備えなど、確認すべき点は少なくない。

 高齢者施設の浸水被害では、16年の台風10号で岩手県岩泉町のグループホームの入所者9人全員が犠牲になった。これを受け、国は浸水想定区域にある高齢者施設や学校、医療施設などの「要配慮者利用施設」に避難確保計画の作成を義務づけた。

 しかし今年1月時点で、対象となる全国約7万8千カ所のうち計画があるのは45%に過ぎない。計画策定の徹底が急務だが、浸水時に想定する避難路が実際に通れるかどうかなど、その実効性も課題になる。

 大切なのは、防災への取り組みを個々の施設任せにせず、地元住民との連携や、施設同士のネットワーク作りなど、多様な安全網を整えていくことだ。

 2年前の西日本豪雨の被災地、岡山県倉敷市真備町では、福祉や医療の約30事業所でつくる連絡会が、地区ごとにある住民組織のまちづくり推進協議会の一部と連携し、仮設住宅の集会室を緊急避難先とする準備を進めている。岩手県では、福祉施設が近隣の企業と支援協定を結んだ事例も見られる。

 災害時に支えが必要なのは、障害者や児童のための施設など数多い。頻発する災害への対策を着実に進めていきたい。

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