(社説)GoTo事業 不安の声を受け止めよ

社説

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 新型コロナウイルスの感染者が全国的に増加傾向にある今、なぜ、さらなる感染拡大を招きかねない事業をやるのか。

 政府が22日に始める観光支援策「Go To トラベル」への批判が相次いでいる。国民の不安をぬぐえないなかでは、実施はいったん見送るべきだ。

 このキャンペーンは当面、1泊1万4千円を上限に、国内旅行料金の一部を割引する。8月中旬開始の予定だったが、夏休みの需要を盛り上げようと前倒しすることにした。

 旅行業界はコロナ禍で大きな打撃を受けている。ホテルや旅館の倒産も続いており、支援を急ぐ必要はある。

 だが、税金を投じて全国的な人の往来を活発にするのは、時期尚早と言わざるをえない。

 菅義偉官房長官は「体調の悪い方などは旅行を控えて頂きたい」と呼びかけるが、無症状の感染者はどうするのか。国土交通省は検温や大浴場の人数制限などの対策を義務づけるとするが、徹底できるのか。移動で「3密」は生じないか。不安は尽きない。

 そもそも政府は4月、このキャンペーンについて、「感染拡大が収束した後」に実施すると閣議決定した。東京都がきのう警戒レベルを最も深刻な水準に引き上げ、豪雨の被災地が災害支援のボランティアを県民に限っている現状は、「収束」からほど遠い。

 地方は、重症化するリスクが高い高齢者が多い一方、医療体制は脆弱(ぜいじゃく)だ。「(キャンペーンで感染が拡大すれば)人災になる」(宮下宗一郎・青森県むつ市長)といった各地の首長らの切実な声を、政府は重く受け止める必要がある。

 感染の状況や、観光業が経済に占める重要性は、地域によって異なる。どの程度のリスクを引き受けながら、どんなかたちで観光業を支援するのかという判断は、国ではなく、地域に委ねるべきではないか。

 約40の道府県が、利用者を主に県内や周辺住民に限定して、独自の旅行割引制度を打ち出している。政府のキャンペーンの予算(1・35兆円)を自治体に移し、地域独自の取り組みを後押ししてはどうか。その際は、補助金で観光関連の業者を直接支援できるようにすることも検討課題となろう。

 キャンペーンで感染が全国的に広がれば、幅広い地域で外出自粛や休業の要請が出されるなどして、経済活動に再び急ブレーキをかけざるをえなくなる恐れがある。

 感染拡大防止と社会経済活動をどう両立させるのか。その課題の重さと難しさを、安倍政権は改めて認識すべきだ。

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