(社説)専門家会議 最後の提言 政府は胸に

社説

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 ちぐはぐな対応に不信を抱いた人も多いのではないか。

 政府の新型コロナウイルス対策に医学的見地から助言してきた専門家会議を廃止し、新たな会議体を設けると、おととい西村康稔担当相が表明した。

 改組することに異を唱えるものではない。だがその前提として、専門家会議のこれまでの取り組みを検証し、課題を整理して教訓を共有する必要がある。新組織を適切に運営していくうえで不可欠の営みだ。しかし政府にそのような動きは見えず、当の専門家会議には改組の発表が伝えられていなかったというのだから驚く。

 こんな粗雑で強引な進め方をして、次の感染の波を乗り切り、社会経済活動との両立を図れるのか、疑問を禁じ得ない。

 専門家会議は、3密の回避、人との接触8割減、新しい生活様式などを提唱し、対策の中心的役割を担ってきた。感染拡大への危機感を背景にたびたび会見に臨み、時間をかけて質問に答え、メンバーらはSNSも使って情報を発信してきた。その姿勢と試みは高く評価できる。

 一方で、この会議が政策を決めているかのような印象を与えたのは否めない。おとといの西村氏の表明と同じ頃、知らずに会見を開いていた座長らは、自省も込めつつ、政策に責任を負うのは政府であり、「専門家との役割分担を明確にすべきだ」と提言した。あわせて示された、地域での感染状況を迅速に把握できる体制の整備や、感染症疫学の専門家育成などとともに、的を射た指摘である。

 専門家会議が前に出過ぎだとの批判は確かにあった。だが、その責任の多くを負うのは政府の側というべきだ。

 専門家の意見を聞かぬまま、首相が2月末に大規模イベントの自粛や全国一斉休校を要請して批判を浴びるや、一転して専門家会議に丸投げするような言動を重ねた。4月に緊急事態宣言を出した後は、安倍首相も西村担当相も、国会や会見で方針を聞かれるたびに「専門家の意見を踏まえ」を繰り返し、自らの言葉で説明し、理解を得ようという姿勢を欠いた。

 今後のコロナ対策を考えるうえで、見解を求められる専門家は、医学、経済、法律などの分野を問わず、客観・中立の立場から誠実に分析や提言を行う。政府はそれを尊重しつつ、最後は自らの判断で施策を決め、責任を引き受ける。そんな関係の構築と覚悟が欠かせない。

 検討の過程を市民がたどれるように、克明に記録を残す必要があるのは言うまでもない。

 結果として最後となるだろう専門家会議の「提言」を、確実に実践していくことが大切だ。

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