私たちの報道倫理、再点検します 朝日新聞社員と前検事長、賭けマージャン問題

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 《朝日新聞執行役員編集担当兼ゼネラルマネジャー 中村史郎》

 緊急事態宣言が出されているさなか、元司法担当記者である本社社員が黒川弘務・東京高検検事長(当時)と賭けマージャンをしていた問題で、読者のみなさまから厳しい批判をいただきました。問題発覚から約1カ月間に電話やメールで本社お客様オフィスに届いたご意見は約860件に上ります。中でも特に多かったのが「権力との癒着だ」という批判です。報道の公正性や独立性に疑念を生じさせたことを、編集部門の責任者として改めておわびします。

 本社は、今回の行為を極めて不適切だとして社員を厳正に処分しました。社員は取材を通じて黒川氏と知り合い、親しくなりました。記者活動の延長線で生じた関係であり、取材先との向き合い方が問われる報道倫理の問題と受け止めています。

 本社が策定する記者活動の指針「記者行動基準」は、「憲法21条が保障する表現の自由のもと、報道を通じて人々の知る権利にこたえることに記者の存在意義はある」と定めています。政治や行政、司法など公権力の内側に迫り、社会に伝えることは、「知る権利」にこたえる重要な柱です。

 公式発表や記者会見だけではわからない事実や意思決定のプロセスを知るためには、権力の核心に迫り、本音や内情を聞き出す関係を築くことが必要です。隠されていた不正や腐敗を掘り起こす調査報道でも、こうした取材が端緒となった例が数多くあり、報道機関の重要な責務と考えています。

 守秘義務を盾に内実を明かさない取材先と、それこそを明らかにしたいメディアの間には根本的な立場の違いがあります。

 一方、取材先に肉薄することで、相手の代弁者になったり、都合のよい情報ばかりを提供されたりする懸念は常にあります。批判の対象になり得る取材先との緊張感を失えば、なれ合いや癒着が疑われます。今回の問題は、報道機関の一員としてそこが問われました。

 一人ひとりの記者は、取材先との緊張感を保ちながらどう肉薄するかに腐心しています。現場の記者を指導する立場のデスクやキャップは、記者の取材結果はもちろん、記者と取材先との関係性やどんな状況での取材かも含めて判断し、報道の公正性を担保するように努めています。

 ただ近年、メディアの振る舞いや権力者との接し方を批判されることが増えてきました。読者代表の立場から報道を点検するパブリックエディター(PE)の一人、作家の高村薫さんからは「読者の考える新聞と、新聞社自身が考える新聞の姿がだんだん乖離(かいり)しているのではないか」との指摘を受けました。

 今回の問題で、朝日新聞の報道姿勢が揺らぐことはありません。そのためにも多くの批判に照らして、私たちの考える報道倫理が社会の感覚とずれていないか、時代に合った取材活動はどうあるべきか、再点検が必要だと考えました。本社の記者行動基準について、PEら社外の方々の意見、国内外の他メディアの取り組みも参考にしながら見直します。

 ■朝日新聞記者行動基準とは

 朝日新聞社は2006年、記者が自らの行動を判断する際の指針となる、記者行動基準をまとめました。その後5回にわたって改定を重ねています。

 記者の責務として「記者は、真実を追求し、あらゆる権力を監視して不正と闘うとともに、必要な情報を敏速に読者に提供する責務を担う。憲法21条が保障する表現の自由のもと、報道を通じて人々の知る権利にこたえることに記者の存在意義はある」としています。また、記者は「独立性や中立性に疑問を持たれるような行動をとらない」としています。

 取材先との付き合いについては、「取材先からは、現金や金券等を受け取らない。品物についても取材資料や通常の記念品等以外は受け取らない。職務の尊厳を傷つけ、記事の公正さに疑念を招くことになる」としています。

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