(社説)ロシア核政策 競争を脱し軍縮へ動け

社説

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 ロシアに向けて「弾道ミサイル」が発射されたと判断した場合、ただちに「核兵器」で応戦することも辞さない――。

 そうした方針を明記した核抑止政策を、ロシアが発表した。米国とロシアとの相互不信が極まり、偶発的な核戦争勃発のおそれが高まっている現実を浮き彫りにしている。

 ロシアはこれまで、自国が核兵器を使うのは、核などの大量破壊兵器で攻撃された場合と、通常兵器による攻撃で国家の存立が脅かされた場合に限る、という原則を示してきた。

 今回発表された文書は、その枠内で具体的な事例を示したという位置づけだ。だが実際には、自国に向かうミサイルが核を搭載していなくても、核兵器を使うことがあり得ると読める内容となっている。

 ロシアが今回、核抑止の具体的な方針を示した背景には、米国を強く牽制(けんせい)する意図があることは明らかだ。

 トランプ政権は2年前に出した「核戦略見直し」(NPR)で、ロシアや中国の脅威に対抗するために爆発力を抑えた「使いやすい」新型核兵器を開発する方針を打ち出した。実際、今年に入って、小型核弾頭を搭載した潜水艦発射型の弾道ミサイルが実戦配備された。

 ロシアはこうした動きに対抗して、ためらうことなく核を使う姿勢を強調したのだろう。

 米ロは互いに核使用に踏み切るハードルを下げている。その土台にあるのは、「本当に使われるかも知れない」と恐れられない限り、核抑止力が損なわれるという考え方だ。

 しかし、規模を問わず核は非人道的であり、決して使われてはならない兵器だ。ひとたび使われれば報復の応酬は歯止めを失い、全面的な核戦争に発展する可能性も大きい。

 米国のキッシンジャー、シュルツ両元国務長官ら4人の識者は07年、「核なき世界」に向けた提言で、偶発的に核が使われるおそれを指摘した。敵のミサイル警報が出れば、ただちに報復発射する。そんな冷戦時代の態勢が今も続く現状を批判し、解除を呼びかけたが、実際には危うさは変わっていない。

 米ロは、核の「使いやすさ」を競いあう愚かさを直視し、不信の連鎖を止めるべきだ。

 両国間では、冷戦末期に結ばれた中距離核戦力(INF)全廃条約が昨夏失効した。唯一残された核軍縮条約である新STARTも来年期限を迎える。

 まずは、条約延長の交渉を進める。その上で、英仏や中国など他の核保有国も含む新たな軍縮枠組みづくりをめざす。それが、人類を危機にさらし続けている米ロ両国の責任である。

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