気候危機が深刻さを増しているいま、二酸化炭素(CO2)排出量が多い石炭火力発電からの撤退を急がねばならない。安倍政権は近くまとめる新たなインフラ輸出戦略で、脱石炭の国際潮流を見すえつつ、輸出支援の中止を打ち出すべきだ。

 石炭火力は、燃焼効率のいい最新型でも天然ガス火力の2倍のCO2を出す。地球温暖化対策の国際ルール・パリ協定は今世紀後半の早期に実質排出をゼロにすることをめざしており、欧州を中心に官民双方で脱石炭火力の流れが加速している。

 しかし日本は主要7カ国(G7)で唯一、途上国にプラントを輸出したり投融資したりしている。新戦略で現状を追認するのか、それとも方針を転換するのか。政府の姿勢が注目されるなかで先月、対照的な内容の報告書が相次いでまとまった。

 一つは環境省の有識者検討会の報告書だ。

 石炭火力のコストは再生可能エネルギーに劣りつつあり、世界のビジネスや金融は脱炭素への投資に転換している。国際エネルギー機関(IEA)は「今世紀半ばに電源のほとんどが脱炭素化される」とのシナリオも示している……。

 報告書はこうした事実を紹介し、石炭にこだわる日本が時代遅れになりつつある現実を指摘した。今後は相手国の脱炭素化の政策づくりを助ける形に転換していくべきだと唱える。気候危機の回避へ、国際協調の強化につながる考え方だろう。

 もう一つは、プラント輸出を所管する経済産業省の有識者懇談会の報告書である。

 「石炭火力への底堅い需要がある」「日本の技術への期待感も大きい」として、引き続き輸出を認める内容だ。その上で、エネルギー面で石炭に頼らざるをえない国に限って支援していくとした。

 忘れてならないのは、気候変動は地球規模で広がる危機であり、途上国にも排出削減の努力が求められることだ。ただ、温暖化対策の長期戦略をもたないケースが少なくない。そうした国から日本の石炭火力を求められた場合、数十年もCO2排出が続く発電ではなく再エネの拡大を促すことが、主要国として責任ある態度ではないか。

 脱炭素化の支援は、相手国の利益になるだけではない。

 日本は再エネへの転換に出遅れ、太陽光や風力の国際ビジネスで存在感を失っている。海外への協力を通じて関連技術を磨き、脱炭素分野でシェアを取り戻していく。同時に、石炭火力の新設計画を多く抱える国内についても見直しを急ぐ。

 そうした展望を描くことこそが政府の役割である。