(社説)ネット上の中傷 言葉を刃にさせぬため

社説

[PR]

 男女6人の共同生活に密着するフジテレビ制作・放送の「テラスハウス」に出演していた22歳の木村花さんが亡くなった。番組内での言動をめぐり、人格をおとしめる投稿がネット上で繰り返され、自宅から遺書らしきメモが見つかったという。

 番組はネットフリックスの動画配信で視聴でき、海外でもその死が話題になっている。番組のつくりに問題はなかったか。プライバシーをさらす若い出演者に対し、心身のケアは適切に行われていたか。制作側はしっかり検証してほしい。

 あわせて社会全体で考えなければならないのは、深刻さを増すネット空間での中傷や攻撃にどうやって歯止めをかけ、個人の尊厳を守るかという、極めて今日的な課題である。

 SNSの利用の浸透に伴い、被害は広がっている。ネット上での名誉毀損(きそん)などの相談件数は年5千件を超え、約10年で4倍になった。法務省人権擁護機関が「人権侵犯」と認定した事件も年2千件にのぼる。

 ソーシャルメディアの運営企業は、問題のある投稿があれば削除や利用停止の措置をとっているという。だが、判断基準が不明瞭だ、作業が追いついていないなどの指摘は根強い。

 検討すべき柱のひとつは、問題の投稿をしたのが誰なのか、「書かれた側」が突き止めるための手続きを簡素化し、被害回復を容易にすることだ。

 いまは権利侵害と思われる投稿でも、サイト管理者やネットの接続業者(プロバイダー)が発信者情報を開示しないことが多い。被害者は、まず相手を特定するための裁判に勝ち、そのうえで賠償請求訴訟を提起するなど大変な労力がかかる。

 業者による任意開示が進むように手立てを講じたり、海外のプロバイダー相手でも裁判を迅速に進められる制度を研究・導入したりするべきだ。総務省も同様の問題意識をもち、有識者による研究会を設けて先月から議論を始めた。市民が自由に発信できるネットの利点を生かしつつ、実効性のある対策を提案してもらいたい。

 名誉毀損か正当な論評・批判か、判断が難しい場合はしばしばある。実名では異議を申し立てにくい立場の人がネットを使って提起することで、問題が可視化され、解決の糸口が見つかることもある。この便利なツールをどう使うか、社会の知恵が試され続けている。

 言葉の刃(やいば)ともいうべき過激なもの言いが飛び交う背景には、社会の閉塞(へいそく)感や不安感の高まりもあるのではないか。ネット空間にとどまらず、その奥にある病巣にも目を向けて、克服の道を探る必要がある。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら