(社説)香港への法制 自治を破壊するのか

社説

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 香港の自由な言論社会を根本から破壊しかねない法律を中国がつくろうとしている。

 「一国二制度」によって守られてきた香港人の権利がなぜ、一方的に制限されるのか。断じて容認できない。

 問題は、中国共産党が香港に導入しようとする国家安全法制である。反体制的な言動を取り締まるもので、22日に北京で始まった全国人民代表大会全人代)で提案された。

 最終日のあす、採決がある。可決されれば、中国の国家安全法制をもとに香港に導入される新法をつくり、8月にも施行される可能性がある。

 香港では「高度の自治」が保障されており、香港で有効な法律は立法会(議会)で可決されたものに限られる。例外である「外交や国防など自治の範囲に属さない法律」についても、罰則規定があるものなどについては立法会が香港の実情に合わせて法制化してきた。

 香港の頭越しでの法制化はこうした既存の立法システムをないがしろにし、「一国二制度」を揺るがす危険な行為だ。

 中国の国家安全法は、共産党政権の体制維持を法の目的として規定している。香港への導入は、政権批判の封じ込めのためにほかならない。

 規制の対象は、国家を分裂させる、あるいは政権を転覆させようとする行為などとされる。施行されれば、香港の平和的な抗議デモも摘発される恐れがある、と民主派は懸念する。

 多くの香港人は国家安全法制の導入に反対してきた。2003年には50万人がデモをし、撤回させた。「逃亡犯条例」改正に反対した昨年の大規模デモでの主張も、これに重なる。

 香港では9月に立法会選挙が予定されている。中国はそれに向けて、民主派に圧力をかける狙いがあるのだろう。昨年の区議選で民主派は大勝し、親中派は危機感を募らせていた。

 一方、習近平(シーチンピン)指導部はコロナ禍での対応をめぐり、米国などから批判を受けている。経済の失速も重なるなか、香港問題で強硬姿勢を示し、国内の求心力を高めたい。そんな思惑もあるのかもしれない。

 中国は国際社会からの批判に対し「内政干渉だ」と反発している。しかし、「一国二制度」の堅持は、中国自身が対外的に宣言した公約だったはずだ。

 香港の繁栄を築いてきたのは闊達(かったつ)な市民社会であり、中国共産党の権威主義を強いるのは、都市文化の否定に等しい。

 眼前で人々の自由が奪われ、人権が侵されようとしているとき、これに異議を呈するのに国境は関係ない。香港への国家安全法制の導入に反対する。

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