(社説)宣言一部解除 再流行への備え怠るな

社説

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 政府は、新型コロナウイルス対策として全国に出していた緊急事態宣言を39県について解除した。日常を取り戻す方向に社会が動くこと自体は喜ばしい。

 だが釈然としない思いも残る。一連のコロナ対応に共通する説明不足、そして透明性の欠如が、今回の解除措置にもつきまとうからだ。

 緊急事態宣言は、市民の自由や権利を制限する力を政府と自治体に与える。発動にせよ解除にせよ、そこに政治の恣意(しい)や思惑が入ってはならない。大切なのは、科学的な根拠に基づいた冷静で客観的な判断だ。

 ところがこの間の政府関係者の説明は場当たり的で、一貫性に欠けるきらいがある。

 連休中の人の移動を抑えるという理由で感染者の出ていない地域まで対象に加え、今月4日に延長を決めたばかりだ。それなのに、効果が最終的に見定まらないうちに解除する。

 西村康稔担当相はかねて解除の具体的基準を打ち出すと述べてきた。だが示されたのは「直近1週間の新規感染者数が人口10万人当たり0・5人以下」という指標にとどまった。

 そもそも感染者の全体像を把握できていないとの指摘があるなか、この数値だけで判断してよいものなのか。各県のPCR検査や医療の態勢を、どんなデータに基づいて確認し、解除相当と判断したのか。説明されていない点は多い。

 患者が平均何人に感染させているかを示す「実効再生産数」などを物差しにする国もある。手探りになるのはやむを得ない面があるが、市民の疑問には丁寧に答えるよう求めたい。感染抑止と社会経済活動を両立させるには、人々が状況を正しく認識し、政府の方針を理解することが不可欠だからだ。数々の問題で説明責任を果たしてこなかった政権だけに心してほしい。

 海外では、外出制限などを緩和した後、再び感染者が増える例が多発している。北海道でも同様の事態が起きた。今回宣言が解除された県でも、警戒と監視を怠ることはできない。

 地域によっては、感染者が少し増えるだけで医療態勢が一気に逼迫(ひっぱく)する状況が起こりうる。入院・療養先の確保や医療物資の調達といった準備に、引き続き取り組む必要がある。

 今後も小さな流行が繰り返し起きると想定される。どの程度の規模に対し、どの程度まで社会活動を抑えるか。その解を探るためにも、各自治体がとってきた措置の検証が大切だ。経験を共有して今後に備えたい。

 当面の手当てを確実に進めるとともに、年単位の長期戦になることを見越した戦略を構築する。政府に課せられた責務だ。

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