(社説)核燃料サイクル政策 理のない「国策」と決別を

社説

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 青森県六ケ所村日本原燃が建設している使用済み核燃料再処理工場について、原子力規制委員会が新規制基準に適合するとの審査書案を了承した。工場の完成に向け、大きく前進することになる。

 だが、原発で使い終えた核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、改めて原発で燃やす核燃料サイクル政策はもはや破綻(はたん)している。再処理工場を動かすことは、核不拡散や経済性、エネルギー安全保障などさまざまな面で理にかなわない。

 安倍政権は方針を転換すべきである。「新規制基準に適合する」という規制委の判断をよりどころに、破綻した「国策」を漫然と続けるのは無責任だ。

 ■トラブル続きの工場

 政府や電力業界は、核燃料サイクルによる発電を「準国産エネルギー」と位置づけ、資源の少ない日本にとって欠かせない政策として推進してきた。

 その中核施設である再処理工場は1997年の完成予定だったが、トラブルが相次いで24回も延期された。2006年に試運転を始めると、不具合の対処に手間取る間に東日本大震災が起きてしまう。新たに発足した規制委は、再処理工場の審査に前例がないため、6年かけて慎重に議論してきた。

 今回、事実上の合格にこぎ着けたものの、詳細設計の審査や安全対策の工事が残り、日本原燃がめざす21年度の完成は不透明だ。操業までには、地元の同意を得る必要もある。

 全国の原発では、使用済み核燃料が再処理工場への搬出を待っている。施設内の燃料プールが満杯に近づく原発もあり、電力業界は「再処理工場が動かないと、発電に支障をきたす恐れもある」としている。

 工場が稼働すれば、最大で年間800トンの使用済み核燃料を処理できる。各原発の燃料プールが満杯になる事態を回避できるのは確かだ。

 ■使えぬプルトニウム

 しかし、工場がフル稼働すれば、年間7トンほどのプルトニウムが新たに取り出される。問題は、その使い道がほとんどないことである。

 プルトニウム消費の本命だった高速炉は、ナトリウム漏れ事故を起こした原型炉もんじゅ廃炉で開発が行き詰まった。もんじゅ後継の実証炉をつくるめどもない。政府はフランスの実証炉アストリッド計画への参加を検討したが、仏政府が計画の縮小を決めるなど暗礁に乗り上げた。現地では計画の断念も取りざたされている。

 一方、ウランとプルトニウムをまぜたMOX燃料を普通の原発で燃やすプルサーマルも広がっていない。現時点で実施しているのは4基で、電力業界がめざす16~18基には遠く及ばず、プルトニウムを大量に消費するのは難しい。

 いま、国内外にある日本のプルトニウムは、6千発の原爆に相当する46トンにものぼる。その削減が日本の国際公約だ。

 にもかかわらず、新たにプルトニウムを取り出せば、「唯一の戦争被爆国なのに、本当にプルトニウムを減らす気があるのか」と国際社会から批判されよう。「核保有の意図があるのでは」と、あらぬ疑いさえかけられかねない。

 政府は、プルサーマルで消費する量を超えない範囲に再処理の量を抑える方針だが、保有量を減らすべきプルトニウムをわざわざ抽出するのは、そもそも理屈に合わない。

 ■許されないツケ回し

 経済性の面でも、核燃料サイクル政策にこだわる不利益は大きくなっている。

 普通の原発ですら発電コストが上がり、競争力を失いつつある。ましてや再処理工場は建設費が当初の4倍の2・9兆円に膨らみ、今後の運転や廃止措置を含む総事業費は14兆円近い。

 すでに先進国の多くは、核燃料サイクルは割に合わないとして撤退している。いまも推進しているのは、中国やロシアなど核保有国ばかりで、かつ、国家が採算を度外視して進めている例がほとんどだ。

 日本の再処理やプルサーマルは民間企業のビジネスであり、かかったコストは電気料金に上乗せされる。理のない政策を続け、そのツケを国民に回すのは許されることではない。

 世界を見わたせば、原発より再生可能エネルギーの躍進が目立つ。コストが大幅に下がってきたのはもちろん、どの国にとっても太陽光や風力などが「純国産エネルギー」であることが大きい。日本もエネルギー安全保障を重視するのなら、「準国産」より「純国産」を拡大する方が理にかなっている。

 ところが政府は従来通りの原子力政策に固執し、再エネの伸びが抑えつけられている。

 核燃料サイクルから撤退すれば、使用済み核燃料の処分の対応を即座に迫られる。だがそれから逃げようと、政府と電力業界がもたれあう無責任体制で政策を続けてはならない。

 一刻も早く政治が決断し、新たな道に踏み出すべきである。

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