北海道から東北北部の太平洋沖で過去最大級の地震が起きたら、最大で30メートル近い大津波が襲来する恐れがある――。

 内閣府の有識者検討会が、そんな推計結果を公表した。政府はこれをもとに今年度中に被害想定をつくり、防災対策のあり方をまとめる。人々の生命・財産を守る足がかりとしたい。

 東北沖の日本海溝や北海道沖の千島海溝では、列島の下に太平洋プレートが沈み込み、ひずみがたまり続けている。検討会は「最大級の津波の発生が切迫している」とみる。

 検討会は、この二つの海溝でマグニチュード9を超す地震が起きた場合の津波の高さや浸水域を計算した。最悪の事態に備えるため、津波の到達を満潮時とし、防潮堤を越えたら堤防は破壊されると想定した。

 それによると、津波の高さは岩手県宮古市で29・7メートル、北海道えりも町で27・9メートルなど、各地で20メートルを超えた。青森県や岩手県北部の一部では東日本大震災のときを上回るという。防潮堤の建設や土地のかさ上げといったハード面の対策では限界があると認識し、「揺れたら逃げる」という津波防災の原則を、改めて徹底しないといけない。

 心配なのは、北海道を中心に多くの自治体庁舎に浸水の恐れがあるとされたことだ。災害時に役所が機能不全に陥れば、被災者の救援やまちの復旧に大きな支障が出る。各自治体は備えに万全を期してほしい。

 福島第一原発の敷地への浸水も懸念される。高さ11メートルの防潮堤の建設や防水扉の設置が進むが、推計によると津波は13メートルを超す。原子炉建屋にたまる汚染水の流出を防ぐために、追加の対策は必要ないか、どんな手立てを講ずればよいか、検討を急がなければならない。

 内閣府は各地の浸水想定図も公開した。ところが、対象となった7道県のうち岩手県だけは外された。「防潮堤が壊れるという前提は住民に不安を与える」といった地元首長の声に押され、岩手県が内閣府に非公開を申し入れたのだ。

 これは理解できない。日ごろから地域の状況を知ってこそ、いざという時に「すぐ逃げる」行動につながる。しかし基礎となるデータが明らかにされなければ、避難計画づくりの議論も進むまい。国は県を説得し、すみやかに公表するべきだ。

 東日本大震災の前、やはり大津波の危険が指摘されながら、地域の防災に十分生かされず、未曽有の原発事故まで引き起こした。多くの人命が失われ、今なお、ふるさとに帰ることすらできない多くの人を生んだ。

 3・11の教訓を、決して忘れてはならない。