あくまで新型コロナウイルスの感染拡大に伴う応急措置である。多くの矛盾と問題をはらむ制度自体をなし崩しに温存することがあってはならない。

 あらかじめ働く場を決め、原則として転職できない外国人技能実習制度で、政府は職種の変更を認める仕組みを導入した。

 観光・製造業などに就いていた実習生が休業に伴って職を失う一方、入国規制で新たな実習生が来日できなくなった影響で農漁業や介護分野では人手が足りない。そんな実習生と事業者を政府がつなぎ、向こう1年働ける在留資格を認める。

 コロナ禍は世界に広がっており、仕事をなくしながら帰国もままならない実習生は少なくあるまい。放置するわけにはいかない。この手当てで助かる事業者がいるのも確かだろう。

 ただ、技能実習をめぐっては、低賃金労働や長時間の残業、雇用主による暴力など、様々な人権侵害が後を絶たないことを忘れてはならない。

 政府は実習生を受け入れてきた事業者に対し、まずは雇用の継続を指導すべきだ。どうしても難しい場合は、本人の希望に基づき、働き手を求める事業者と結ぶ。これまでの受け入れで違反がないことが前提で、法令を守ることを確約させる。そうした手順をしっかりと踏む必要がある。

 職を変える実習生は、都市部から地方へ移るケースが多いと見られる。コロナ感染は大都市圏で目立つだけに、受け入れ先で不安をもたれる恐れもある。事業者の近隣住民を含めた周知と合意形成が欠かせない。

 最長1年のつなぎ期間を経た後、実習生は政府が昨年4月に新設した「特定技能」制度に移ることとされた。人材育成を通じた国際貢献を掲げる技能実習とは別に、外国人労働者の受け入れ拡大を狙った試みである。

 この特定技能制度も、基本的に最長5年の滞在後は帰国させ、家族の帯同を認めないなど問題が多い。政府・与党が拙速に導入したこともあり、昨年末時点で2千人にも達しない。

 一方で技能実習生は増え続けており、約41万人に及ぶ。事業者が圧倒的に強い立場にあるだけに、制度を残す限り、人権侵害の根絶は困難とみるべきだ。

 コロナ禍は、日本社会が外国人の働きに頼る現状を改めて浮き彫りにした。労働力ではなく、生活者として受け入れる。この基本に立って、官民の関係者には技能実習生の暮らしぶりへの目配りを怠らないでほしい。その上で、今回の応急措置を制度の縮小・廃止への起点としつつ、海外の人材にかかわる仕組み全体の見直しを急がねばならない。