(社説)補正予算審議 暮らし守る理念を示せ

社説

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 新型コロナウイルスの感染拡大にともなう経済対策を盛り込んだ今年度補正予算案の審議があす始まる。

 予算案の総額は25・7兆円。巨額な割に、国民に安心感が広がっているようには見えない。「国民の命と暮らしを守る」という姿勢が読み取れないからではないか。

 最優先するべきは、医療崩壊を起こさぬよう医療現場の態勢を強化し、治療薬の開発に力を注ぐことである。

 ところが補正予算案では、医療提供態勢の整備などのために厚生労働省に計上した予算は5430億円にとどまる。一方、感染収束後に旅行や外食の消費を喚起するキャンペーンには1兆6794億円を投じる。

 緊急事態宣言への備えも不十分だ。政府が宣言の対象を全国に広げたため、事業者に休業要請する自治体が増えている。にもかかわらず、自治体が休業支援に使える臨時交付金は、対象拡大前に決めた当初案どおり1兆円に据え置いた。

 政府関係者によると、補正予算案の検討は3月中旬に本格的に始めた。当時は2~3カ月後に感染が収束する想定だった。状況が悪化して緊急事態を宣言したが、十分に軌道修正できなかったという。

 安倍首相は3月下旬、「(コロナ禍の)マグニチュードに見合う強大な政策を打つ」と語った。しかし金額こそ膨らませたものの、想定は甘く、状況の変化にもついていけていない。

 コロナ禍は長期化が避けられそうにない。政府は事態をどうとらえ、どのような考え方で臨むのか、改めて理念を示す必要がある。そのうえで、速やかに次の対策の検討に入り、具体策を打ち出さねばならない。

 幅広い国民から感染防止の協力をとりつけるには、政府への信頼が欠かせない。しかしそれに反する事態が、経済対策をめぐっても生じている。

 政府は当初、現金給付の対象を減収世帯に限るとした。その理由として、一律に配ると時間がかかることを挙げていた。ところが一律給付に政策を変更すると、今度は「(一律の方が)はるかに早く現金が行き渡る」(高市総務相)と言い始めた。

 政策の是非を左右する重要な前提条件が変わっては、実のある審議はできない。場当たり的な説明では、国民の信頼を失うことを肝に銘じるべきだ。

 現金給付の方針転換で、審議入りが予定より1週間遅れたため、野党は早期の採決に応じる方針だ。苦境にある人への支援は遅らせられない。しかし議論を尽くし、政府が与野党の意見に真摯(しんし)に耳を傾けねばならないのは、当然である。

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