(社説)米朝会談1年 非核化へ実務協議急げ

社説

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 物別れに終わったとはいえ、敵対の歴史に改めて一石を投じるトップ会談だったはずだ。このまま一過的な出来事として終わらせてはなるまい。

 昨年2月、米朝の2回目の首脳会談がハノイで開かれて、1年が過ぎた。この間、両国関係は、トランプ氏金正恩(キムジョンウン)氏の個人的な関係だけがつなぎとめる奇妙な停滞感が続いている。

 前年のシンガポールでの初会談では、「朝鮮半島の永続的な平和体制づくり」を約束した。その前進への期待を砕いたハノイの決裂は、問題の所在を明確にした。それは、核心のテーマである「非核化」の定義が見えていないということである。

 北朝鮮は、すでに開発済みの核能力については放棄する姿勢を見せないままだ。当面の核・ミサイル実験の自制を、譲歩として強調し、代わりに厳しい経済制裁の緩和を求めている。

 すべての核放棄を求める米側との開きはその後、何も変わっていない。

 業を煮やしたように金正恩氏は昨年末、「世界は遠からず、新たな戦略兵器を目撃する」とすごんだ。一方で今年は経済の5カ年戦略の最終年というのに、最近は、とんと発言がない。活路を見いだすには米国と対話を進める以外ないが、その歩を踏み出せずにいる。

 重苦しい膠着(こうちゃく)状態の責任は、トランプ氏も負っている。

 ハノイ会談から4カ月後、トランプ氏は南北朝鮮の軍事境界線で金氏と再会した。だが、それも結局、即興的な演出の域を出なかった。忍耐を伴う準備作業を怠るトランプ流外交の限界というべきだろう。

 トランプ氏は昨年の一般教書演説で、ハノイ会談の開催を表明したが、今年は北朝鮮問題に言及すらしなかった。大統領選をにらみ不都合なことには触れないというのでは、北朝鮮側に足元をみられるだけだ。

 事態を打開するには、米朝が申し合わせた実務協議を開き、交渉を積み重ねるしかない。非核化の定義を描き、段階的な制裁緩和を進める道筋を築く地道な作業が求められている。

 北朝鮮は最近、新型肺炎問題を強く警戒しており、外貨収入源である中国からの観光客の入国も止めた。長期化すれば、韓国や米国に対話再開を持ちかけてくる可能性がある。

 また、韓国での感染の拡大を受けて、米韓当局は合同軍事演習を延期することにした。それは結果的に、北朝鮮がかねて求めてきたものでもある。

 にわかに醸成された環境を、北朝鮮情勢の前向きな変化に結びつけられるかどうか。日本と韓国も米国と足並みを調整し、対話の機会を探るべきだ。

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