(社説)新型肺炎対策 きめ細かな現場支援を

社説

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 政府がおととい発表した新型コロナウイルス感染症対策の基本方針は、感染拡大のスピードの抑制に努めつつ、重症者への対応に力点を置いたものだ。

 十分な設備のある指定医療機関が限られるなか、症状に応じて優先度をつけて診断・治療に当たるという考えは妥当だ。

 だが大きな懸念材料がある。先頭に立つ政府が信頼されていないことだ。対策を助言する専門家会議の初会合が開かれたのは、大幅に遅れて今月16日。感染経路が不明な患者が見つかった後だ。水際での防止にこだわり、国内の流行対策が後回しになったとの批判は免れない。

 大型クルーズ船への対応も不信を深めた。下船した乗客から複数の感染者が出ているのを見れば、船室待機を求めた5日以降、感染は広がらなかったとする政府の見解は疑わしい。

 ある時点で講じた策が、結果として裏目に出ることもあるだろう。大切なのは、最新の情勢や知見を踏まえた臨機応変な対応であり、誤りに気づけばすみやかに正し、国民にていねいに説明する姿勢である。

 基本方針の実践にあたっては医療現場へのきめ細かな支援が欠かせない。例えば「病院での診療時間や動線を区分する」とあるが、各施設の事情は一様ではない。とるべき措置やそれを実現する工夫について、専門家が助言・指導できる仕組みを考えてほしい。学会や医師会をはじめとする医療関係者も、積極的に協力するべきだ。

 特別養護老人ホームのような高齢者が集団で暮らす施設への目配りも大切だ。いずれについても、物資や装備の安定供給が必要なのは言うまでもない。

 方針には、地域で患者が増える状況が今後続けば、感染検査は肺炎患者の治療に必要な診断のためのものに移行する、との考えも盛り込まれた。症状の軽い疑い例まで一律に調べるのは現実的でないが、検査を拒まれる例が現に相次ぎ、不安が広がっているのを手をこまぬいて見ているわけにはいかない。

 ここでも正確な実態把握と情報の開示、理解を深める説明が不可欠だ。感染者数を低く見せるために検査を抑えているのでは、といった疑念を招くようなことはあってはならない。

 社会の側も省みる点がある。

 中国から帰国した人やクルーズ船の元乗客、さらにはその手当てにあたった医療従事者らに対し、差別やいじめ、人権侵害に当たるような言動が各地で報告されている。日本災害医学会も憂慮する声明を出した。

 看過できない事態だ。病気を過度に恐れ、平常心を失うことは、社会が感染症との闘いに敗北することに他ならない。

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