(社説)検察の人事 首相の責任で撤回せよ

社説

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 東京高検検事長の定年延長問題をめぐる、その場しのぎで支離滅裂な政府の対応は、国の統治システムが崩壊の危機に瀕(ひん)していることを如実に物語る。

 きょう衆院予算委員会の集中審議が開かれる。安倍首相は混乱の責任を認め、今回の人事をすみやかに撤回すべきだ。

 経緯をたどれば、子どもでもそのおかしさがわかる。

 ▽2月3日 検察庁法に定年年齢が明記されているにもかかわらず、1月31日の閣議で延長を決めたことについて、森雅子法相が国会で「国家公務員法の規定を適用した」と答弁

 ▽10日 「同法は検察官に適用されない」との政府見解があることを野党議員が指摘

 ▽12日 人事院の局長がこの見解について「現在まで同じ解釈を続けている」と答弁

 ▽13日 首相が「今般、適用されると解釈することとした」

 ▽19日 人事院の局長が、先に答弁した「現在」とは1月22日のことだったと修正。誤った理由は「つい言い間違えた」

 ▽20日 解釈変更の証しとして人事院が示した文書に、日付がないことが判明。法相は「必要な決裁をとっている」と答弁

 ▽21日 法務省の事務方が予算委理事会に「日付を証拠づける文書はない」「口頭による決裁を経ている」と説明

 ▽25日 法相が会見で「口頭でも正式な決裁だ」と表明――

 法を踏みにじり、行政の信頼を担保する文書主義もかなぐり捨てて、つじつま合わせに狂奔していると言うほかない。

 その「主役」が、基本法を所管し法秩序の維持を使命とする法務省である。強大な権限を持つ検察には厳正公平が何より求められる。自分たちの足元を掘り崩している認識はあるのか。相談を受けたとされる人事院と内閣法制局も、一定の独立性をもって、内閣に意見を言い、おかしな動きにブレーキをかける役目を担う機関だ。職責への誇りを見失ってはいないか。

 首相や菅官房長官は、定年延長は法務省の要請を聞き入れただけで、責任はすべて同省にあるかのような態度をとる。

 国民を愚弄(ぐろう)してはいけない。このような措置が官邸の意向抜きで行われることなどあり得ないと、誰もが見抜いている。

 官邸の専横や脱法的な行いが答弁の破綻(はたん)を招き、責任を押しつけられた官僚は、虚偽の説明や文書の隠匿、果ては改ざんにまで手を染める。現政権下で何度も目にしてきた光景だ。

 感染症の広がりを前に、政権のあらをいつまで追及するのかとの声がある。だが政権への信頼がなければ、どんな政策も遂行することはできない。まさに信無くば立たず、である。

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