(社説)中国とウイルス 情報の自由奪う危うさ

社説

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 国民の健康と安全をめぐる医療情報や批評が封殺される。そんな社会は異様であり、秩序の安定もむしばむだろう。

 中国共産党政権が言論の統制を強めている。新型コロナウイルスが広がる深刻な事態を受けて、監視と取り締まりをさらにエスカレートさせている。

 今週、米ウォールストリート・ジャーナル紙の中国駐在記者3人を事実上の国外退去処分にした。米国の大学教授が新型肺炎問題を受けて中国を論評したコラムに抗議したものだ。

 同紙については昨秋、習近平(シーチンピン)国家主席の親族をめぐる報道をした記者も、事実上の退去処分になった。今回は当局が問題とする記事とは直接関係のない記者たちを処分した点で、異例さが際立つ。

 中国の市民に対しても、厳しい強権の発動が続いている。

 感染都市とされる武漢は今も「封鎖」されているが、弁護士や市民らが一時、病院現場の悲惨な実情をSNSで発信していた。だが、やがて彼らは相次いで行方不明になった。当局に拘束されたとみられている。

 外国メディアや市民による情報発信を封じる動きには、感染拡大をめぐる当局批判を抑え込みたい思惑がある。

 共産党政権はかねて、社会の安定こそが市民の利益だとし、そのためには言論の自由も制限されると正当化してきた。

 しかし今回は、そうした言論弾圧が情報の隠蔽(いんぺい)を生み、感染拡大という悲劇につながったのではないかという疑念を広げている。

 武漢市の33歳の医師、李文亮氏は昨年、ウイルスに関わる情報をいち早くSNSで発信し、警鐘を鳴らした。だが、警察は「デマで秩序を乱した」として訓戒処分にした。その後、十分な対策がとられないなかで李氏は自身も感染し、死亡した。

 李氏の遺志を継ぐ形で、北京大学教授らは今月、異例の公開書簡を発表し、「人民の知る権利が奪われた結果、数万人が感染した」と指摘した。感染拡大は当局の言論統制が招いた「人災だ」と糾弾している。

 報道への圧迫や市民の取り締まりを強めても、そうした疑念は拭えまい。

 現に起きていることを誰もが自由に発信し、論じあい、様々な対策と備えをとる。それがいかに社会の強靱(きょうじん)化に必要か。今回の問題は改めて、自由が制限された社会の弊害を中国国民に考えさせている。

 亡くなった李医師は中国メディアに「健全な社会は一種類の声だけであるべきではない」と語っていた。その言葉の重みを共産党政権は正面から受け止めるべきである。

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