新型コロナウイルスの集団感染が起きた大型クルーズ船で、政府による14日間の留め置き措置が終わり、検査の結果が陰性で、かつ症状のない乗客の下船が始まった。

 感染が確認された乗客・乗員は600人を超えた。乗客に個室での待機を求めた今月5日以降も、船内で広がった疑いがある。おととい現場に入った国内の専門家からは、感染防御の対策が取られていなかったという厳しい指摘も出ている。

 集団感染の原因や伝播(でんぱ)のルートを早急に調べ、今後の対策にいかすとともに、情報を世界で共有しなければならない。

 下船した人たちの心身のケアも欠かせない。定期的に健康状態をチェックし、異常があれば速やかに対処できるようにすることが、本人はもちろん周囲の安心にもつながる。

 この間、政府の方針は二転三転した。当初、症状のない人はそのまま下船させる予定だったが、横浜港に入った直後の検疫で感染者が見つかると、方針を変えて船内待機を求めた。その後、感染者がほぼ連日見つかるなか、持病を悪化させて救急搬送される人も出るようになった。14日からは高齢者らの下船を認めることにした。

 ウイルスの検査態勢が整わず、対応に一定の制約があったにせよ、無症状で元気な人や、検査で陰性だった人まで船内にとどめる必要があるのか、疑問の声はあった。疑いのある者は上陸させず、水際で阻止するという方針にこだわり、事態の悪化を招いた面はないか。

 また、持病薬の提供を含む日常生活のサポートや、乗客・乗員への情報提供のあり方にも課題を残した。あわせて検証の対象にしてもらいたい。

 船には、日本以外にも55の国・地域の乗客と乗員が乗っていた。今回の政府の一連の措置が、こうした国々の信頼を得られているとは言い難い。

 米国はチャーター機を派遣して自国民を退避させたが、帰国後、改めて14日間の隔離を実施している。今月5日以降新たな感染は起きていないという、厚労省の見解が受け入れられていない証左だ。対策の足並みをそろえるためにも、船内の実態の解明を急ぐ必要がある。

 集団感染が疑われる大型船への対処方法が、国際社会で確立していない問題も浮上した。

 別のクルーズ船は、日本やフィリピン、タイなどで入国を拒まれ、1週間余り洋上をさまよった。世界保健機関(WHO)は「根拠に基づかないリスク評価だ」と批判している。

 検疫・治療の態勢や費用分担のあり方について、国境を超えたルールの整備が急がれる。