日本経済の実態と、政府・日銀の景気判断の間に、隔たりが広がってきた。想定されていた年明け以降の景気回復シナリオに黄信号がともっている。予断を持たずに現状を見極め、どう認識しているのか、遅滞なく発信する必要がある。

 今週公表された1月の景気ウォッチャー調査は、現状判断指数が3カ月続けて上昇したものの、2~3カ月先についての判断を示す指数がはっきりと悪化した。旅行やレジャーなどサービス関連の家計支出や、製造業の企業動向を示す指数の落ち込みが目立つ。新型肺炎の経済活動への影響が、消費、生産の両面であらわれ始めた。

 一方、17日に1次速報が公表される昨年10~12月期の国内総生産については、年率4%程度のマイナス成長を予想する民間シンクタンクが多い。10月の消費税率引き上げ後、民間消費が大きく減った。設備投資や輸出も落ち込むとみられる。

 日本経済は米中貿易摩擦の激化を背景に、18年後半から勢いが鈍り、19年に入って悪化を示す指標が相次いだ。秋以降には自然災害が重なり、消費税率も引き上げられた。各指標を合成した景気動向指数の機械的な現状判断は、昨年8月以降「悪化」が続く。

 しかし、政府・日銀は、様々な留保をつけつつも「景気は緩やかに回復している」といった判断を保ってきた。米中摩擦などで一時的に落ち込んでも、遅くとも年明けには上向くといった見方を基本にしていたからだ。消費増税についても、軽減税率や「キャッシュレス」のポイント還元などの対策で、影響は軽いと見ていた。

 こうした見方は、現時点でも維持できるのか。

 新型肺炎への対応で、人やモノの移動が制約されることの影響が、経済面でどこまで広がるか、なお見通せない。中国と密接な関係を持つ日本への影響を過小評価すべきでない。

 加えて、米中貿易摩擦や消費税率引き上げの影響についても、改めて点検するべきだ。日本経済は長く続いたデフレ状況から完全に脱却したとはいえず、賃上げもまだしっかりとは定着していない。雇用の改善が停滞すれば、賃上げから消費や投資の拡大につながる経済の好循環に至らぬままに、反転する懸念もある。

 景気の山谷の学術的な判定は事後的に行われるものであるにせよ、適切なマクロ政策を検討するためには、機敏な景気判断が不可欠だ。余力の乏しい金融・財政政策を無駄打ちせずに効果的に用いるためにも、精度を高めた判断を、民間部門と共有することが求められる。