(社説)米の新型弾頭 「使える核」などない

社説

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 大国が核兵器の使用に踏み切るハードルを下げようとしている。偶発的な核戦争のリスクを高め、世界全体を危うくする愚挙というほかない。

 米政府が、新たに開発した小型核弾頭搭載のミサイルを潜水艦に実戦配備した。ロシアなどが持つ小型核への抑止力を強める、と説明している。

 米国防関係者の間では、従来の核兵器は破壊力が大きすぎて使いにくい、との指摘はかねてあった。地域紛争で起きかねない限定的な核攻撃への報復を担保するためにも小型核が必要だ、と主張している。

 しかし、「使える核兵器」という考え方そのものが幻想でしかない。戦略的な安定をもたらすどころか、むしろ軍拡競争を招く可能性が危惧される。

 そもそも、規模にかかわりなく核攻撃は許されない。

 弾頭の破壊力は広島原爆の3分の1程度というが、核の惨苦を再びもたらすことが「小型だから」正当化されるシナリオなどありえない。国際人道法上だけでなく、使用国は重大な責任を問われるのは必至だ。

 武力衝突の規模を制御できると考えるのも誤りだ。誤算や誤認で戦局は容易にエスカレートする。大量破壊兵器が投じられれば、なおさらだ。核で応酬する戦争に勝者はいない。

 今年は広島・長崎の被爆から75年にあたる。冷戦期から世界の核管理の支柱である核不拡散条約NPT)も、発効から半世紀となる。4~5月には、条約加盟国が5年に1度、不拡散と軍縮への関与を確認する再検討会議が開かれる。

 条約の第6条は、核保有国に対し、誠実に軍縮を進める義務を課している。だが、世界の核の大半を保有する2大国の米ロをはじめ、中国なども義務を忘れたかのようだ。

 米ロの逆行する動きは小型核に限らない。冷戦終結の呼び水となった中距離核戦力(INF)全廃条約は昨夏失効した。残る新戦略兵器削減条約新START)も来年が期限だが、米国は延長を確約していない。

 こうした大国の無責任ぶりの一方で、北朝鮮は身勝手な核開発を止めず、南アジアや中東も核問題に直面している。核危機が世界を覆う現状を、国際社会は変えねばならない。

 非核国が中心になって結ばれた核兵器禁止条約について、日本はいまも背を向けたままだ。保有国と非核国との橋渡し役を自任するが、存在感は薄い。

 被爆75年の今年こそは、「核なき世界」をめざす真の決意を示す時である。米国に対しては不拡散体制を立て直す意義を説きつつ、新STARTを延長させるよう働きかけるべきだ。

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