(社説)賃金の時効 原則の「5年」を早急に

社説

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 未払いの残業代などをさかのぼって会社に請求できる期間(時効)を今の過去2年分から3年分にする。そんな労働基準法改正案が国会に提出された。

 4月施行の改正民法で、一般的なお金の支払いを請求できる期間が原則5年に統一されるのに合わせた見直しだが、なぜ賃金は3年なのか。

 働く人を守るための法律が、民法の原則を下回るルールを定めて権利を制限するのはおかしい。早急に民法と同じ5年にするべく、国会でしっかり議論しなければならない。

 賃金請求権の時効は現行の民法では1年だが、「労働者保護」の観点から、民法に優先するルールとして労基法で2年と定められている。

 今回の改正では、厚生労働省の審議会で、労働側が改正民法と同じ5年にするよう求めたのに対し、経営側は賃金台帳といった記録を保存する事務負担が増えるなどと反対。結局、労基法は、原則5年としたうえで「当分の間」は3年とし、施行5年後に見直しを検討する折衷案で折り合った。

 だがこの内容では不十分と言わざるを得ない。見直しの必要性は、施行状況を勘案して判断するとされており、5年後の実施は約束されていない。

 記録の保存義務も原則5年としながら、当面は3年に据え置かれる。これでは、企業側の態勢が整っていないことを理由に、経過措置がずるずると続きかねない。

 改正民法の施行後、会社は一般的な取引やフリーランス、請負契約の人の書類は5年間保存しなければならなくなる。雇用関係のある社員の記録だけ3年間保存するのでは、むしろ混乱するのではないか。

 企業負担への配慮はどこまで妥当なものか。仮に経過措置を設けるにしても、その間、企業側にどのような取り組みを求め、いつまでに原則の5年に移行するのか。国会審議でもっと掘り下げて、具体的な道筋を示すべきだ。

 残業代の不払いを指摘されて100万円以上を支払った企業は18年度、1768社、総額124億円(約12万人分)にのぼる。問題が発覚した企業の多くは、労基法で定められた2年分しか払っていない。

 政府は春闘で経営側に賃上げを求めるが、まずは本来払われるべき賃金が支払われるようにすることが先決だ。

 賃金は働く人の生活の糧である。労基法が民法に優先する特例を定めたのも、保護の必要性が高いからに他ならない。

 労基法の趣旨、働く人たちの権利を守る視点に立ち返って考える必要がある。

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