(社説)札幌冬季五輪 課題山積の中の名乗り

社説

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 札幌市が2030年の冬季五輪パラリンピックの招致をめざすことになった。ほかに手を挙げる都市はなく、日本オリンピック委員会(JOC)が理事会で「国内候補地」とすることを決めた。

 多くの疑問と課題を残しての表明と言わざるを得ない。

 今回の招致の意義について、会見したJOCの説明は「開催がオリンピズムを広げることになる」といった内容に終始した。札幌ならではの理念ははっきりせず、これでは多くの人の理解を得るのは難しい。

 夏季冬季とも、肥大化した五輪の運営には資金や人材、インフラが必要で、開催地難の時代を迎えている。国際オリンピック委員会(IOC)は開催都市を7年前に決めるルールを見直した。早期の選考・決定によって大会の持続可能性を図る考えだが、今後の段取りや手続きには不明な点が少なくない。

 JOCはそれらを確認しないまま一歩目を踏み出した。勝算ありと見たのだろうが、前のめりの姿勢は不安材料だ。

 何よりJOCは今なお、東京五輪招致をめぐる贈賄疑惑の渦中にある。納得できる調査・検証は一向になされず、説明責任は果たされていない。そんな状態で次の五輪を言い出すこと自体、見識が疑われる。この問題にけじめをつけることが招致の大前提ではないか。

 72年の札幌冬季大会は街の姿を一変させ、成功体験として市民の記憶に刻まれる。今回も五輪をテコに国際観光都市への発展を期待しているようだが、時代状況や財政事情は大きく違うことを忘れてはならない。

 今夏の東京五輪は「コンパクト五輪」をうたって招致しながら、構想の欠陥が相次いで露呈し、大幅な見直しを余儀なくされた。国立競技場の設計変更騒ぎは記憶に新しく、大会後の用途をめぐる混迷も続く。

 この轍(てつ)を踏んではならない。

 五輪を開けば、直接の経費のほかにも多額の費用が必要となり、その多くは最終的には地元住民や国民の負担となる。

 札幌市は26年大会の招致を検討していた時期もあるが、いま一度、めざす大会の姿、期待される効果とその根拠、見込まれる費用と財政への影響、環境にかかる負荷などを、できるかぎり詳しく示す必要がある。

 欧米での実施例を踏まえ、IOCは必要に応じて、開催の是非を住民投票で問う意義にも言及している。札幌でも市民の意思を確認する手続きは欠かせない。そのためにも、市は五輪開催がもたらす光と影を丁寧に語り、自分たちのまちの針路について、市民が判断できる土台を築かなければならない。

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