(社説)米国とイラン 武力の応酬、即時停止を

社説

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 世界を巻き込む紛争に陥るか否かの縁である。米国とイランはこの事態の重さを認識し、報復の応酬をただちに停止しなくてはならない。

 イランが、隣国イラクにある米軍の駐留する基地2カ所をミサイルで攻撃した。米軍の空爆による精鋭部隊司令官の殺害に対する報復だとしている。

 1979年のイラン革命に伴う断交以来、両国の対立は続いてきたが、これほど直接的な武力行使に発展した例はない。大国間の無益な全面衝突は何としても避けなくてはならない。

 イランでは、司令官を追悼する儀式が営まれ、反米世論が渦巻いた。指導部は国民感情も考慮して報復に踏み切ったとみられるが、一方で「戦争は求めていない」(外相声明)と抑制したい姿勢も垣間見える。

 冷静に考えるべきだ。80年代のイラン・イラク戦争の下での苦しい生活を、国民は記憶している。新たな戦乱と窮乏の道は誰も望んでいない。米国との衝突をここで確実に抑えることが賢明なのは明らかだ。

 ここまで事態が悪化した最大の責任は、米トランプ政権にある。司令官を殺害した空爆についての説明はいまも不明瞭なままで、法的根拠が見えない。

 そもそもイランの核をめぐる国際合意から一方的に離脱した経過を顧みれば、危機を生み出したのは米国自身だ。これ以上無謀な軍事行動を重ねるなら、米国には国際秩序の破壊者の烙印(らくいん)が押されるだろう。

 この危機の下でも国連安保理が機能しないのは、ゆゆしい事態である。とりわけ常任理事国である英仏中ロは、中東の緊迫に伴う経済市場の動揺や、過激派組織の活発化を防ぎたい共通の利害があるはずだ。国際世論を明示するうえでも安保理の行動を見せるべきだ。

 今回の米国のふるまいは、過激派組織「イスラム国(IS)」掃討を含む、国際的なテロ対策にも冷や水を浴びせた。

 イラクには掃討作戦に加わっている米以外の国々の軍部隊も駐留しているが、司令官殺害を狙った米軍の空爆は事前に知らされていなかった。そうした国々は急きょ、部隊を他国に移すなど対応に追われた。

 自国の思惑を優先し、他国にとっては危険が高まる一方的な軍事行動も辞さない。そんな米国の「同盟軽視」は、ここでも各国を悩ませている。

 安倍首相は11日から予定していた中東訪問を延期するかどうかの検討を始めた。だが、中東海域への自衛隊派遣は「方針に変更はない」(菅官房長官)という。事態の急変に伴うリスクなどの説明もしないままで国民の理解が得られるはずもない。

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