(社説)米大統領弾劾 外交私物化の危うさ

社説

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 外交のゆがみと内政の分断。この弾劾(だんがい)が世界に見せつけているのは、混迷と凋落(ちょうらく)が続く米国の嘆かわしい姿である。

 米議会の下院が18日、トランプ氏を弾劾訴追する決議を可決した。98年のビル・クリントン氏以来、史上3人目の大統領弾劾である。

 98年と同様に採決での賛否はほぼ党派で割れた。問われたのは大統領の根本的な資質だったが、日常化した与野党の争いの一幕に堕した感も否めない。

 主な責任は、トランプ氏自身と与党共和党にある。多くの関係者に証言しないよう縛りをかけ、手続きの問題などを言い立てて調査を妨げた。

 そうした圧力にかかわらず、現職の外交官や元当局者らが明かした事実は重かった。大統領と側近による外交の私物化は、国際社会にとっても重大な懸念であることを示した。

 決議によれば、トランプ氏は政敵である民主党の大物を追い落とすため、ウクライナ政府に協力を求めた。その際、それまで提供してきた軍事支援を止めて応諾を迫ったとされる。

 ウクライナはロシアとの紛争を抱えており、米国からの支援は頼みの綱だった。弾劾の是非はどうあれ、友好国の苦境を国内政争の具に利用した身勝手さは、強い非難に値する。

 目先の損得勘定や自己都合を優先するトランプ外交の悪弊は、これまでも随所に指摘されてきた。中東政策でも貿易問題でも、トランプ氏は自らの支持基盤の歓心をかうために数々の原則を曲げてきた。

 ウクライナ問題は氷山の一角にすぎない。とりわけ欧州や日本、韓国などとの同盟関係を軽んじることによる米の信頼低下は、米国自身が戦後築いてきた国際秩序を危うくする。

 そうした深刻な事態に、これから弾劾裁判を始める上院は向き合うべきである。客観的な事実をそろえて大統領の逸脱行為をただすべきだが、多数を占める与党により「無罪ありき」で幕引きされかねない。

 関心の焦点は大統領選挙へ移り、激しい政争が続くだろう。この弾劾は選挙戦で与野党どちらを利するかもすでに語られているが、果てしない党派対立の不毛さから米政界が抜け出す日は来るのかすら見えない。

 トランプ氏は下院議長に書簡を送り、弾劾は「米国の民主主義に対する宣戦布告」だと記した。「100年後の人々が正しく理解し、学ぶ」ことを呼びかけて身の潔白を主張した。

 本当に未来を憂えるならば、米国と世界の関係を見つめ直してもらいたい。トランプ氏が掲げる「自国第一」は決して、平和と繁栄の道ではない。

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