(社説)土砂投入1年 民主国家のすることか

社説

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 力で異論を抑え込み、重要な情報を隠し、ごまかしと強弁を重ねて相手の疲弊を待つ――。そんな安倍政権の体質が、この問題でもあらわだ。

 沖縄・米軍普天間飛行場の移設をめぐり、辺野古の海への土砂投入が始まって1年になる。

 昨年9月の知事選、今年2月の県民投票、4月の衆院補選、そして7月の参院選と、県民は繰り返し「辺野古ノー」の意思を示してきた。だが政権は一貫して無視を決めこんだ。

 日ごろ自らの正統性をアピールするために国政選挙での「連勝」を誇り、野党をやゆする首相だが、こと沖縄に関しては、投票で示された民意は切り捨てるべき対象であるらしい。二重基準も甚だしい。

 ほかにも、およそ民主主義国家とは思えぬ行いが続く。

 環境破壊の恐れや取り決め違反を理由に県が実施した行政指導は、埋め立てに関する法令に基づくものだけで、15年以降で33件に上る。今月も、浮き具の重りがサンゴを傷つけたとして撤去と工事の中止を求めたが、国は一顧だにしない。民間の事業では考えられない対応だ。

 一方で、県が埋め立て承認を撤回したことの当否を争う裁判では「国も一般企業や個人事業者と変わりはない」と主張し、国が埋め立てをする「権利」を守るよう唱える。物事の本質を見ず、小手先の法解釈に走る裁判所がこれを追認し、一体となって沖縄を追い詰める。嘆かわしい限りだ。

 埋め立て予定区域に広がる軟弱地盤問題でも、国は14~16年の調査で存在を把握しながら公表しなかった。土砂投入後にようやく正式に認め、8万本近くの杭を海底に打ち込んで対応すると言い出した。自らが選んだ有識者の「お墨付き」を近く得て、設計変更を県に申請し、認められなければ裁判に訴えてでも押し通す構えだ。どれだけの費用がかかるのか、国は見通しすら示していない。

 こうした態度に県民が不信を募らせるのは当然だ。焼失した首里城の復元に国が前向きなのも、辺野古で県の譲歩を引きだすためではないかと、警戒の目が向けられるありさまだ。

 そもそも普天間飛行場の移設は、沖縄の基地負担の軽減が出発点だった。ところが辺野古の埋め立てが自己目的化し、普天間が現に直面する騒音被害や墜落の恐怖をいかに取り除くかという協議は、一向に進展しない。今の計画どおりでも移設工事の完成に10年以上かかる。国が力を尽くすべきは、真の「普天間問題」の解決である。

 沖縄の声に向き合え。土砂もろとも民意を海中に投じたあの日から1年、繰り返し訴える。

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