(社説)マイナンバー カード普及を焦る不毛

社説

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 マイナンバーカードは何のために持つのか。

 必要性を多くの国民が実感できないなか、政府はカードを一気に広げようと、前のめりになっている。しかし、予算をばらまき、半ば強引に取得を迫るような手法は、看過できない。

 一つは、1人最大5千円分のポイント還元策だ。いわゆるデジタル版の商品券で、Suica(スイカ)やPayPayペイペイ)などのキャッシュレス決済で使える。

 消費増税後の景気対策の一つと位置づけ、昨年から実施ありきで制度設計が進んできた。来年9月から7カ月間の期間限定で、カードを取得して専用サイトでIDなどを設定すれば、所得や年齢に関係なく、恩恵を受けられる。ただしキャッシュレスで決済することが条件だ。

 約4千万人分、2千億円以上もの予算が投じられる見込みだが、消費刺激策としての効果ははっきりしない。

 もう一つは、「公務員には今年度中にカードの取得を推進する」との閣議決定の方針のもと、国家公務員に行われている調査だ。公務員ではない被扶養者も対象に、記名式でカード取得の有無や、申請しない場合はその理由を尋ね、上司に提出させている。人権侵害に当たらないだろうか。

 12けたのマイナンバーはすでに国民全員に割り当てられている。顔写真つきのカードの交付は本人の申請に基づき、2016年1月に始まった。

 本人確認ができる電子証明書もついており、政府は「安全・安心で利便性の高いデジタル社会の基盤」と位置づけ、23年3月末には「ほとんどの住民が保有」すると想定する。

 しかしこれまでの発行枚数は1800万枚超と、普及は進まない。昨秋の内閣府の調査でも「必要性が感じられない」を選んだ人は多く、個人情報の漏洩(ろうえい)や盗難を心配する声も根強い。

 カードの裏面には、税や社会保障の手続きに使われ、「むやみに他人に見せるべきではない」とされてきた12けたの番号が書いてある。持ち歩くことに不安を感じる人は、少なくないだろう。

 住民票をコンビニで取れる、ポイント還元でお得だ、健康保険証として使えるようにもなると、いくら「利便性」を強調しても、結局は制度開始当初から指摘された国民の懸念を、ぬぐいきれていない。

 必要性を感じないままでは、たとえカードが普及しても使われない。「デジタル社会の基盤」にしたいのなら、政府がやるべきは必要性を繰り返し説明し、国民の懸念を解消することだ。予算のばらまきや取得の強要ではない。

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