(時時刻刻)突然の転換、対応限界 英語民間試験、61国立大取りやめ=訂正・おわびあり

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 英語民間試験をめぐる文部科学省の突然の方針転換を受けて、活用を決めていた国立大の8割が独自に使わないことになった。受験生には戸惑いが広がる一方、教育現場では、入試制度に振り回されずに「読む・聞く・話す・書く」の4技能を身につける努力も続いている。▼1面参照

 ■「入試担当者足りない」

 民間試験の活用を取りやめた東京大は、2次試験の出願の条件として、国の成績提供システムから受け取る成績を使う予定だった。例えば、英検なら「準2級~2級」に相当する「A2」以上の成績を提出するなどすれば出願を認める。もともと学内には反対する声も大きく、システムの頓挫を機に活用をやめた。

 複数の異なる民間試験を言語能力の指標に基づいて一律に評価し、6段階評価の形で出願先の大学に送るシステムなしでは、評価にかかる膨大な作業を大学側が担うことになる。そうした背景もあり、民間試験の成績を最大20点まで得点換算して使うはずだった筑波大も、活用を取りやめた。永田恭介学長は「本番までに態勢が整わないので対応できない。入試担当者を臨時で雇うわけにもいかない」と話す。

 一方、鹿児島大は、英検準1級以上などの成績を取っている場合、全学部で共通テストの得点に加点する。「大学としてはグローバルな人材が欲しい。英語ができる学生は優遇したい」(入試担当者)。

 国のシステムの活用を予定していた私立大も、方針の変更を発表している。早稲田大は、政治経済学部の一般選抜での活用を取りやめるが、文、商など4学部では活用を続ける。ほとんどの学部で独自の英語試験をやめる方針だった立教大は、民間試験に加え、「読む・聞く」の2技能を測る大学入試センターの英語試験も使えるようにした。独自に得点を換算し、高得点の方を合否判定に使うという。(横川結香、三島あずさ、福島慎吾)

 ■併願校次第で準備は必要

 国立大が民間試験の活用方針を示したことを受け、塾や高校現場では対応に追われている。

 Z会東大進学教室(東京都)では29日朝からツイッターで、主な国立大の発表内容を次々と知らせた。向江真緒・御茶ノ水教室長は「志望校のチェックを続けて」と指導する。民間試験のスコアを出願資格とする国立大はほぼなくなったが、早稲田大などの併願や推薦入試に備える必要もある。「個別試験で加点する千葉大などもあり、使う大学をめざす生徒にはスコアアップが求められる」

 群馬県立高校に通う2年の女子生徒(17)は、「結局、大学ごとに一つひとつチェックするの? 本当に面倒」と嘆く。岐阜県高山市の進学校、県立斐太(ひだ)高校の滝村昌也校長は「生徒の進路希望と各大学の方針をきちんと把握しないといけないので、担任の負担も大きい」と心配する。

 日本私立中学高校連合会の近藤彰郎副会長は、「大学にはもっとポリシーを持ってほしい。翻弄(ほんろう)される受験生のことを考えて」と話す。

 一方、高校現場では冷静に受け止める声もある。

 生徒の多くが難関大を目指すという大阪府立高校の50代の男性校長は「民間試験はテストの公平性が不透明なこともあり、不適切だと思っていた」。都立日比谷高校の武内彰校長は「都立高入試ではスピーキングテストの活用準備も進んでおり、グローバル社会に向け4技能を高める教育は淡々と続けていく」という。横浜市の私立聖光学院高校の工藤誠一校長も「英語の話す力、聞く力はこれからの時代を生きるのに絶対に必要。これまで通りオンライン英会話や民間試験の受検を続ける」と話す。

 全国高校長協会の萩原聡会長は、「しっかり検討して活用を決めた大学が活用するのは問題ない」としながらも、今回やめた大学に「今後活用を検討する際には、見送りの原因となった問題点などを十分に考えて決めてほしい」と求めた。宮坂麻子、山下知子、渡辺元史、山下周平)

 ■経緯検証・新制度への検討会… 文科省、対応追われる

 萩生田光一文部科学相が、民間試験の活用見送りを発表してから1カ月。大学入試改革の目玉だった民間試験が頓挫したうえ、国会では、もう一つの目玉である国語と数学の記述式問題の導入中止を求める野党の追及も続く。萩生田氏が活用の経緯を検証すると確約したことを受けて、文科省は、非公開会議の議事録の公開の準備を続けている。歴代文科相にも聞き取りした上で、24年度に導入を目指す新制度について、約1年かけて検討する方針だ。年内に初会合を開く。

 文科相在任中に活用を提唱していた下村博文氏は29日の会見で、政治主導で方針を決めた弊害ではと問われ、「強権的な政治家が『決めたからもう一切変えるな』みたいなレベルの話ではない」と反論。見送りの判断がずれ込んだ理由について、「現場のやり方の問題であった」と述べ、指摘されていた受験生の地理的・経済的格差の問題を解消できなかった文科省の落ち度を指摘した。宮崎亮、矢島大輔、増谷文生

 ■各大学の一般選抜での英語民間試験の活用方針

 ◆全学部で活用する

 東京海洋、広島、九州工業、佐賀、鹿児島

 ◆一部の学部で活用する

 秋田、茨城、千葉、東京芸術、金沢、福井、大阪教育、山口、九州、長崎、宮崎

 ◆活用をやめる

 北海道教育、室蘭工業、小樽商科、帯広畜産、旭川医科、北見工業、弘前、岩手、宮城教育、山形、福島、筑波、宇都宮、群馬、埼玉、東京、東京医科歯科、東京外国語、東京農工、東京工業、お茶の水女子、電気通信、一橋、横浜国立、新潟、長岡技術科学、上越教育、山梨、信州、富山、岐阜、静岡、浜松医科、名古屋、愛知教育、名古屋工業、豊橋技術科学、三重、滋賀、滋賀医科、京都、京都教育、大阪、兵庫教育、神戸、奈良教育、奈良女子、和歌山、鳥取、島根、岡山、徳島、鳴門教育、香川、愛媛、高知、福岡教育、熊本、大分、鹿屋体育、琉球

 ◆もともと活用しない

 北海道、東北、筑波技術、京都工芸繊維

 ◆未定

 東京学芸

 <訂正して、おわびします>

 ▼11月30日付1面・2面の英語民間試験の記事や表で、民間試験を活用しない大学を62校としたのは61校の誤り、活用する大学は16校でした。「活用をやめる」に含めた茨城大は、「一部の学部で活用する」でした。見出しとともに訂正します。確認が不十分でした。

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