(社説)日米貿易協定 これでは疑問が解けぬ

社説

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 日米貿易協定の承認案が、きょうの衆院本会議で可決される見通しだ。

 衆院の審議で政府側は「日米双方にとって、ウィンウィンかつバランスのとれた協定」といった主張を繰り返し、野党が求めた資料提出にほとんど応じなかった。反発して野党が退席した際は、与党がそのまま時計を進めて質問時間を消化する「空回し」を行った。

 誠実さに欠ける対応が続き、合意をめぐって浮かんだ数々の疑問点は、解消されていない。参院の審議では、政府側は「ウィンウィン」の根拠について、国民が理解できるよう説明を尽くす責任がある。

 大きな焦点は、「今回合意できなかった、米国に輸出する自動車と部品にかかる関税の将来の撤廃は、確約なのか」「米国が日本車に追加関税や数量規制をかけない理由として、政府は『首脳間の約束』を挙げるが、根拠となるのか」の二つだ。

 野党は、米国のライトハイザー通商代表が合意時に、今回の協定について「乗用車や自動車部品の関税は含めなかった」と述べたことなどに触れ、「関税撤廃は前提」という日本政府の説明との矛盾を指摘した。

 協定が発効した場合の経済効果の試算でも、政府は自動車などの関税撤廃を含めている。このため、野党は自動車分を除いた試算の提出を求めたが、政府側は拒んでいる。

 朝日新聞などの試算でも明らかなように、自動車関連の関税撤廃の有無で、協定全体の自由化の度合いはまったく違う。なぜ、政府は公表しないのか。野党が「国会軽視、国民無視の姿勢を露骨に示した」と批判するのはもっともだ。

 安倍首相は、自動車に追加関税をかけないことをトランプ米大統領と確認したと言い、「首脳間の約束は極めて重い」と強調する。しかし、具体的なやりとりは明らかではない。トランプ氏は翻意が珍しくなく、首相の説明に納得できる国民は多くはないだろう。

 そもそも、協定の全体像が見えないことに、不安を覚える。

 発効から4カ月以内に行うとする協議で、何を話すのか。自動車の関税撤廃は本当に対象となるのか。ならなければ、二国間で貿易協定を結ぶ際には貿易額の9割程度の関税撤廃を求める、世界貿易機関(WTO)のルールとの整合性も問われる。

 大統領選を控え、米政府は来年1月1日の協定発効を求めている。そのためには、今国会の会期末までに承認される必要がある。

 だからといって、審議を急ぐ理由にはならない。政府には、誠実な対応を強く求める。

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