(社説)NHK経営委 介入の疑念は晴れぬ

社説

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 NHKは、圧力に屈して報道を手控えたのではないか。そんな疑念は依然、晴れていない。公共放送としての説明責任を果たすべきだ。

 かんぽ生命保険による不正販売を報じた番組をめぐる問題である。昨年、日本郵政グループが抗議を重ね、NHK経営委員会が上田良一会長に厳重注意をした。それに先立ち、番組の続編の放映が延期されていた。

 この事実が明らかになってから3週間あまり。国会でも取り上げられたが、関係者はだれも問題性を認めておらず、事実関係もはっきりしていない。

 このままではNHKの報道姿勢全般に疑問符がつきかねない。経営委が郵政側の意をくんで会長に注意をしたのは、なぜか。なぜ編集への介入ではないといえるのか。判断の詳細を明らかにするべきである。

 注意を決めた経緯について経営委は、議事録は存在しないとしていた。ところが15日に記者会見した石原進委員長は一転、議事録があったと釈明した。

 郵政側は当初、番組の取材姿勢などをめぐり会長らに抗議をしていた。その後、番組幹部が「番組制作に会長は関与していない」と発言したことを取り上げ、NHKの組織統治(ガバナンス)に問題があるとの趣旨を経営委に訴えた。

 経営委の議論の中では、番組幹部の発言をもってガバナンスの不全とすることに異論も出たという。だが、そうした議論の過程は「プライバシーなどのため非公表にした」としている。公共放送の最高意思決定機関としての自覚が疑われる。

 石原委員長は会見で、放送法が禁じる編集への介入ではないとし、郵政側の主張に沿うようなガバナンス問題を強調した。それでいて「視聴者目線」に立っているという説明を、かんぽ不正の被害に遭った多くの視聴者が納得できるはずがない。

 NHK執行部も反省すべき点がある。上田会長は「自主自律を堅持した」と繰り返すが、ガバナンスの問題ならば、なぜ番組制作の責任者である放送総局長が郵政側に事実上の謝罪に出向いたのか釈然としない。

 昨年の早くから、かんぽ不正を問うたNHKの現場の仕事ぶりはたたえられるべきであり、続編の放映が約1年間も先延ばしされた事実は重い。

 抗議した日本郵政の鈴木康雄副社長は、元総務事務次官である。先日もNHKの取材について「まるで暴力団と一緒」と放言し、撤回もしていない。

 公正な報道活動は、圧力や横やりにひるまず問題を告発する覚悟の上に成り立つ。NHKであれ朝日新聞であれ、その基盤を守る重責を忘れてなるまい。

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