(社説)日本と韓国を考える 次代へ渡す互恵関係維持を

社説

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 日本と韓国はこの夏、打開の糸口すら見つけられない政治の対立を続けている。

 両国間では政治の関係が市民社会に伝染したかのように、ささくれだった感情がぶつかり合う。その結果、比較的堅調だといわれてきた経済や文化の関係にまで暗雲が漂い始めた。

 おとといの8月15日は日本の「終戦の日」だが、韓国では、日本による植民地支配からの解放を祝う「光復節」だった。

 文在寅(ムンジェイン)大統領は演説で歴史認識問題のトーンを低く抑え、「日本が対話と協力の道に出れば、我々は喜んで手をつなぐ」と関係改善を呼びかけた。

 根本的な課題は依然残る。だが両政府はこれを契機に互いの不利益しかうまない報復合戦に終止符を打ち、関係改善に向けた対話に歩を進めるべきだ。

 いまの日韓の対立の発端は、歴史問題である。

 両国間の慰安婦合意を文政権が骨抜きにしたうえ、戦時中の元徴用工らについて韓国大法院(最高裁)が日本企業に賠償を命じる判決を出した。

 判決は、日本による20世紀初めの韓国併合自体が不法だったとの前提で導かれた。併合をめぐっては1960年代に至る国交正常化の交渉でも対立し、最終的に「もはや無効」という玉虫色で決着させた経緯がある。

 ■文政権は合意尊重を

 日本政府が反発するのは今になって併合を不法とするなら、賠償の範囲が際限なく広がりかねないためだ。

 文政権も司法の判断を尊重するとしつつ、これまでの行政府の見解と相いれない部分があることは認識している。ただ、いつまでも判断を持ち越すなら、状況は改善しないだろう。

 演説で文氏はこうも語った。韓国は植民地支配の被害者らに対し、「日本とともに苦痛を実質的に癒やそうとし、歴史をかがみとして固く手をつなごうとの立場を堅持してきた」と。

 まさにこの歩みこそ、両国が編み出してきた外交の知恵だったはずだ。国交正常化の協定があいまいさを残していたとしても、それを後世の政治が不断の努力で補ってきたのである。

 その意味で文氏には今こそ行動を求めたい。まずは慰安婦合意を再評価し、尊重すべきである。合意は朴槿恵(パククネ)・前政権が結んだといっても、いったん国家間で交わされた約束が反故(ほご)にされるなら、信頼は保てない。

 保守政権の実績を否定したことで、結果的に対日関係の悪化を招き、自らを苦しめていることを省みる必要がある。

 文氏の演説とは裏腹に、光復節では安倍政権を糾弾する集会が韓国各地で開かれた。日本というより、政権に問題があるとの見方が強まっている。

 輸出規制の強化に踏み切ったことで、安倍政権が事態を複雑にしたのは確かだろう。文政権に問題はあったにせよ、政治・歴史問題から本来切り離しておくべき経済にまで対立を広げたのは適切ではなかった。

 ■なぜ「反安倍」なのか

 韓国を突き放すだけでは解決の道は開けない。もともと歴史問題をめぐって安倍政権は、過去の反省に消極的だという評価がつきまとう。そこに抜きがたい韓国側の不信感がある。

 その払拭(ふっしょく)のためには、改めて朝鮮半島に関する歴史認識を明らかにすべきではないか。文政権による慰安婦合意の再評価と同時に安倍政権の認識を発する措置を話しあってはどうか。

 日本政府は今も、慰安婦問題についての政府見解は、被害者へのおわびと反省を表明した1993年の「河野談話」であると国内外に表明している。

 また、韓国併合をめぐっては100年の節目に当時の菅直人首相が出した談話が閣議決定され、いまも公式見解として生きている。談話は「朝鮮の人々の意に反した支配によって国と文化を奪った」として、少なくとも併合の不当性は認めた。

 安倍政権がこれらの見解を主体的に尊重する姿勢を示せば、韓国に約束の順守を求める説得力を増すことができるだろう。

 対立の中でも、理性的な対応を呼びかける動きが厳としてあるのは、関係成熟の表れだ。

 ソウルの自治体が日本製品の不買などを呼びかける垂れ幕の設置を試みたところ、市民の批判で撤回に追い込まれた。

 日本では、和田春樹・東大名誉教授らが「韓国は『敵』なのか」と問う声明を出した。輸出規制措置の撤回や対話を求める内容で、8千人以上が賛同者に名を連ねている。

 ■半世紀の発展の実績

 半世紀前の国交樹立に伴い、日本が提供した経済協力金は、現代の韓国の基礎を築いただけでなく、日本経済の成長にも寄与した。両国は常に互恵の関係で発展してきた実績がある。

 負の記憶がまだ色濃く残る時代の壁を越えて先人たちが積み上げた苦心の結びつきは、何物にも代えがたい平和の財産である。今後、日韓はどんな関係を次世代に引き継いでいくのか。双方の政府と市民が冷静に熟考するときではないか。

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