「雨の映画」、わずかな日は差したのか 「天気の子」、記者レビュー

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 国内で興行収入250億円と邦画歴代2位の国民的ヒットとなった「君の名は。」から3年、新海誠監督の新作長編アニメ「天気の子」が19日に公開された。大きなプレッシャーの中、新たな物語をどんな思いで紡ぎ出したのだろうか。

 新海監督は「結末については意見が分かれると思う」と言った。なるほどと思う。こういう結末は映画を見る前も、見ている間も、まったく予想できなかったし、過去の類例も思い浮かばない。

 「私たちは世界のかたちを決定的に変えてしまったんだ」という、キャッチコピーにも使われているセリフは、まさにその通りだ。主人公とヒロインは不思議な経験をし、最後に途方もなく大きな決断をする。

 世界の運命を背負ってしまった少年少女なんてアニメではありきたりの設定だが、新海監督は「お約束」をやぶり、ハッピーエンドにも悲劇にもしない。最後のシーンでたどりつくのは「もっと大きな物語の始まり」のような場所で、その先の世界、その先の2人の物語を、観客である私たちに預けている。新海監督の冒険心、「君の名は。」ヒットで得たであろう自信、そして観客への深い信頼を感じた。

 笑いから涙へ、目まぐるしい展開でグイグイと観客を引っ張った「君の名は。」に比べれば、起伏が乏しく暗いと感じるかも知れない。大きく変わってしまった「未来」から「現在」を振り返る主人公のモノローグには、重く沈鬱(ちんうつ)な響きがある。ヒロインに残酷な運命が待っていることを、序盤から端々ににおわせてもいる。きらめく光や繊細な陰影の演出は相変わらず見事だが、今作の基調は雨にけぶる灰色の大都会、わびしく光る風俗街のネオンだ。雲の上の不思議な空間も、晴れ晴れとしてはいるが実はそれが不吉。

 「晴れの映画」か「雨の映画」か。メジャーな夏休み映画に新海監督はあえて後者を選んだのだ。ラストのラストにわずかな日が差したような気がしたが、あれは本当だったのか幻だったのか。スクリーンの映像がエンドタイトルに切り替わって、世界の未来と、主人公らの行く末を案じていた時、RADWIMPSの歌声が響いた。

 「愛にできることはまだあるよ、僕にできることはまだあるよ」

 まだ、ある。この控えめだけれど前向きな言葉が、私たち観客への願いのようなメッセージだと受け止めた。小原篤

 ■若者には「大丈夫だ!」と言ってほしい 新海誠監督

 「天気」をテーマにしたきっかけは、「君の名は。」の公開時あたりから実感した気候の変化です。僕たちが親しんだ穏やかな四季はどこへ行ったのか。報道を見ても気候変動は否定できない。この先はたぶん、もっとひどくなる。

 僕たち大人はそういう無力感や絶望感を抱えて右往左往するばかりだけど、これから自分の人生を生きる若い人たちには、そんな憂鬱(ゆううつ)を飛び越えて、新しい世界に向かって力強く走り抜けてほしい。それで、帆高と陽菜というキャラクターが出来上がりました。

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 終盤、帆高は大きな決断をし…

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