(社説)トランプ発言 差別・排斥、看過できぬ

社説

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 これがいまの米国の大統領の言葉であるという事実があまりに重く、暗澹(あんたん)たる思いに沈まざるをえない。

 トランプ氏の放言である。非白人の女性野党議員4人を念頭に、「元々いた国に帰り、壊れた国を立て直すのを手伝ったらどうか」とツイートした。

 4人のうち3人は、難民か、あるいは移民の親を持つ人たちだ。政権の移民政策が排他的だと批判されたことに立腹してのトランプ氏の表明だった。

 米国では、奴隷の歴史をもつアフリカ系の人々に対する差別表現として「アフリカへ帰れ」という中傷が使われてきた。そうした歴史を顧みない大統領の差別意識は深刻である。

 トランプ氏の一連の言動は、人種問題にとどまらない。「誰かが我々の国に問題があるといい、国を愛していないのなら、出て行くべきだ」と発言した。

 そもそも4人は米国市民であり、選挙を経た国民の代表だ。国の問題や政策について批判する当然の政治活動を、「愛国」問題にすり替えて排除するのは民主主義の否定に等しい。

 背景にあるのは、自分の支持層だけを意識し、政敵との分断をあおることが政治的得点を稼ぐという打算だろう。トランプ氏の与党議員たちも、発言を非難する下院決議で賛成に回ったのはごくわずかだった。

 分断と党派対立が激化し、政治全体のモラルが低下する流れは、米国だけの問題ではない。欧州連合からの離脱をめぐり揺れる英国をはじめ、欧州など各地で差別や排斥を訴える運動が勢いを保っている。

 トランプ発言に対し、メイ英首相が「まったく受け入れられない」と表明したほか、ニュージーランドカナダの首相らも次々に非難したのは、共通する危機感があるからだ。

 グローバル化が進む時代、国民の統合はどの国にも重い課題である。考え方や価値観、背景が多様化する国民をどう包摂するか。多元主義を看板としてきた米国の政治がその重責を放棄するならば、国際社会の規範も崩れてしまう。

 グテーレス国連事務総長は今春、「憎悪のメッセージ」や「人種的優越性という有毒な考えをまき散らす指導者たち」に立ち向かうよう訴えた。

 日本の政治家も、等閑視している時ではあるまい。

 日本社会にとっても、多文化共生は逃れようのない課題だ。在日コリアンLGBTといった少数派や、政治的な見解が異なる相手を「反日」「出て行け」と攻撃する言動はネットなどで日常的に横行している。

 排斥を黙認する社会は、決して持続可能な未来を描けない。

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