(社説)参院選 首相の遊説 政権党の度量はどこに

社説

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 参院選を戦う与野党のホームページには、党首ら幹部の遊説日程が告知されている。ところが、自民党は総裁たる安倍首相の予定を掲載していない。

 地元の関係者には事前に伝え、報道機関には当日朝までに連絡があるとはいえ、国民に広く政策を訴えるつもりがあるのか、首をかしげざるを得ない。

 非公表の理由について、自民党は、公務との兼ね合いで日程が流動的なことと、現場が混乱する可能性を挙げる。首相側近の萩生田光一幹事長代行は「組織的に演説を妨害する方もいる。聴きたくて集まった人に迷惑をかける」という。

 念頭にあるのは、2017年夏の東京都議選最終日、秋葉原での街頭演説だろう。聴衆の一部から「辞めろ」コールを浴びた首相が、「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と言い返し、自らに厳しい世論に向き合わない姿勢が批判された。

 自民党はこの年秋の衆院選で、首相日程の一部を非公表とした。昨年の党総裁選最後の秋葉原での演説では、公共のスペースであるにもかかわらず、党関係者が一部を区切って、支援者以外を遠ざけようとした。「ステルス遊説」とも皮肉られる今回の参院選対応は、その延長線上にある。

 誰でも耳を傾けることができる街頭での演説は、広く有権者に政見を訴えることに意義がある。支援者しか眼中にないような首相の内向きな姿勢は、現に政権を預かる政治指導者の振るまいとして、著しく度量を欠くものだ。

 7日にあった東京・JR中野駅前での街頭演説。首相を激励したり、逆に批判したりするプラカードを持った聴衆が陣取り合戦のように立ち並び、首相への「辞めろ」コールと、それに反発する人たちの「黙れ」という怒号が飛び交う――。

 首相の支持派と批判派に分断された群衆は、政権をとりまく世論の縮図のようにみえる。幅広い合意づくりの努力を怠り、自らを支持する勢力に依拠して強引に政治を進める政権の振る舞いと無縁ではなかろう。

 「野党の枝野さん。民主党の、あれ民主党じゃなくて今、立憲民主党ですね。どんどん変わるから覚えるのが大変」

 首相はこの参院選で、野党第1党の立憲民主党の党名をわざと言い間違えて、受けを狙う演説を繰り返している。枝野幸男代表から「選挙妨害」と指摘されても、反省する風はない。

 与野党がしのぎを削る選挙戦のさなかとはいえ、公党に対する敬意は全く感じられない。野党をただ敵視し、異論を受け止める寛容さに欠ける政治は、社会の分断を深めるだけだ。

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