型破りな即興の首脳外交が奏功するかどうかは見通せない。本当に歴史的な進展といえるのは、非核化への一歩であることを忘れてはなるまい。

 冷戦の対立構造が残る朝鮮半島の軍事境界線上で、米国と北朝鮮の首脳が会談した。韓国の大統領も加わり、朝鮮戦争の当事国のうち3者のトップが初めて一堂に会した。

 現職の米大統領が北側の地を踏んだのも初めてであり、トランプ氏が好むメディア向けの演出になったのは確かだ。前日に思い立ち、ツイッターでの呼びかけで実現したという。

 敵対国の首脳が直接対話を重ねるのは結構だ。だが同時に不安も募るといわざるをえない。これで3回目を数える米朝首脳会談すべてが、事前の周到な準備を欠いていたからだ。

 今回の会談でトランプ氏は、米朝間の実務レベルの協議開始に合意したと表明した。交渉チームを指名し、数週間のうちに話し合いを始めるという。

 過去2回の会談のあとも交渉が始まるはずだったが、実際には進展しなかった。今度こそ、非核化と平和体制をめざす工程づくりを進めてもらいたい。

 これまで北朝鮮側は、核問題の実質的な論議を避けてきた。前回の首脳会談では、米朝間で非核化の定義すらできていないことが浮き彫りになった。

 トランプ氏は「問題はそれほど複雑ではない」と語ったが、楽観が過ぎる。非核化の実現は綿密な合意と確認を要する作業であると心得るべきだ。

 北朝鮮はこれからの核開発を見合わせることで制裁解除を求めたいようだが、それは不十分だ。過去に開発した核も全廃すべきなのは言うまでもない。

 将来の外貨不足を見越して、金正恩(キムジョンウン)氏は制裁の緩和を急ぎたいものとみられる。一方で、対米交渉が滞る事態にも備えて、後ろ盾である中国やロシアの首脳とも会談を重ねてきた。

 米朝の接近で、核やミサイルの実験が激減したことは日本も評価できるが、応急的な措置に過ぎない。この現状が長引けば、それだけ北朝鮮の核開発の固定化を許してしまうリスクを認識せねばならない。

 北朝鮮問題をめぐる切迫感は一時より薄れている。米朝の仲介役を自認する韓国は、存在感が陰りつつある。安倍政権は、圧力一辺倒から「前提条件なしの対話」へとかじを切ったが、北朝鮮が応じる気配はない。

 米朝首脳の個人的な友好ムードだけで時を浪費するようであれば、朝鮮半島の永続的な和平づくりはほど遠い。双方に具体的な合意づくりを促すよう、日韓はじめ周辺国の首脳が働きかけを強めていくべきだろう。