(社説)米中首脳会談 世界の不安解く交渉を

社説

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 2大国の首脳が直談判した結果は、決裂を避けつつも問題の先送りでしかなかった。両者が「自国第一」から脱しない限り、世界の不安は解消しない。

 トランプ米大統領と習近平(シーチンピン)中国国家主席が大阪で会談した。焦点の貿易問題について、交渉の再開で合意した。米側は制裁関税「第4弾」を見送る。

 最悪の事態を回避し、話し合いの席に戻るのは前向きではあるが、展望は明るくない。

 両首脳は昨年12月の前回会談でも、対話による解決で一致していた。折り合えないとみるや米国は第3弾の制裁に踏みきり、交渉を中断した。

 争点である中国の国内産業への補助や知的財産権の侵害などについて、今回の発表で言及はない。今後も再び時をやり過ごすとすれば無責任である。

 米中の報復の応酬は、世界経済に打撃を与えている。国際通貨基金によると、双方の関税措置などにより、2020年の世界の成長率が0・5%縮小しかねないという。

 米中が経済的に正面から衝突すれば、損失は計り知れない。今度こそ、持続可能な真の合意につなげなくてはならない。

 そもそも米中間には対話を深めるべき課題が山積している。

 南シナ海問題、核軍縮・不拡散、地球温暖化など、米中抜きに問題の進展はありえない。そうした諸問題の論議が、貿易問題のあおりで低調なままなのは憂うべき事態である。

 米中対立はもはや貿易にとどまらず、世界における覇権争いであるとの見方は根強い。そのため「新たな冷戦」とまで呼ばれるが、ここは20世紀型の古い思考に陥ってはなるまい。

 中国企業の華為技術(ファーウェイ)に対し、トランプ政権は5月、米企業による輸出制限を発動。中国人の留学生受け入れなどでも、交流の「壁」を築くような動きを見せていた。

 だが、それは米国にとっても損失と気づいたのか。トランプ氏は今回の会談で、華為への輸出を認め、中国人の米国滞在にも配慮をすると約束した。

 技術革新も人的交流もグローバル化した今、米中も深い相互依存の関係にあり、「冷戦」構造をつくれるはずもない。両首脳とも、その現実を国内に説いて妥協を探るほか道はない。

 習氏は会談で「協力は摩擦より良く、対話は対抗より良い」と語り、トランプ氏も記者会見で米中は「戦略的パートナー」になりうる、と述べた。

 21世紀の国際環境を形づくるプロセスは、米中関係に大きく影響される。両首脳は足元の国内世論ではなく、世界の未来を考える大局観をもって交渉を進めてほしい。

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