(社説)児童虐待防止 対策を生かせる体制に

社説

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 虐待防止強化のための改正児童福祉法などが成立した。親による子への体罰禁止を明記したほか、最前線で対応に当たる児童相談所の機能強化をめざす。

 これまでも痛ましい事件が起きる度に、制度改正や運用の見直しがなされた。だが、それを実行する現場の体制が伴わず、悲劇が繰り返されてきた。政府は今後、財政面からもしっかり支え、対策の実効性を高めなければならない。

 法案審議のさなかにも、札幌市で2歳の女児が衰弱死する事件が起きた。児相は、会えないこと自体をリスクととらえ、通報を受けて48時間以内に子どもの安全を確認する「48時間ルール」に、従わなかった。

 子どもを守るための最低限のルールが徹底されない背景に、何があるのか。増え続ける虐待の通報に人手が追いつかず、現場が疲弊しているのではないか。国会審議でも、大きな論点となった。

 政府は昨年末、児童福祉司を今の3千人から22年度に5千人体制にする緊急対策をまとめたが、実行できるのか。実現したとしても、虐待通報の増加ペースに間に合うのか。与野党の修正協議で、虐待の相談対応が過重とならないよう必要な見直しをする規定が盛り込まれた。政府は実態を踏まえ、今の計画で十分か、常に検証すべきだ。

 増員と同時に、虐待対応にあたる人たちの専門性向上も大きな課題だ。児童福祉司の45%は3年未満の勤務経験しかない。指導役の確保・育成が急務だ。

 札幌のケースでは、児相と警察の連携の悪さも問題点として指摘された。児相はもとより関係機関の担当者の、虐待に関する知識やリスク判断力を高める取り組みも欠かせない。

 親に対する指導や援助にもあたる児相が、親との関係悪化を恐れて子どもの一時保護などをためらうことがないよう、改正法では、「介入」と「支援」の担当職員や部署を分けることを求める。

 きめ細かい対応ができるように、人口などをもとに児相設置の基準も新たに設ける。ただ、あくまで目安であり、どこまで増えるかは自治体次第だ。3年前の法改正でも、中核市・特別区の児相設置促進がうたわれたが、この間、設置したのは兵庫県明石市のみ。設置が進まない原因を分析し、手立てを講じることも政府の責任だ。

 東京都目黒区や千葉県野田市の事件では、子どもの発したSOSが大人に届かないという課題も浮き彫りになった。改正法の施行後2年をめどに検討することとされたが、子どもの意見表明権を保障する仕組み作りも、急がねばならない。

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